ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 『 W O L F 』1話更新しました ( No.2 )
日時: 2010/12/19 15:15
名前: グミ (ID: U3CBWc3a)

【001】


東京 国立児童養護施設 光川孤児院


「兄貴、朝ごはんだよ〜ぉ。」
(大狼 陸)の部屋に、1人の男の子が入ってきた。男の子の手には、1枚のプレートの上に朝ごはんが2人分。雰囲気的には、頼まれて持ってきた理由ではないらしい。ベットに寝そべっていた陸は、髪を掻きむしりながら、重い身体を起こした。
「なんだよ。自分の飯ぐらい自分で持ってこれる。」

「兄貴にそんなことさせれないです。これは子分の役目ですから!!!」

男の子は胸を叩き、何度も頷きながら笑顔を見せる。
陸の子分と言っているのは、陸と同じで両親がいない(綾木 宗太郎)である。
宗太郎はプレートを机の上に置くと、陸と向き合うように座った。陸はベットを椅子に、机の朝ごはんに無言で手をつける。会話がないが、宗太郎は生き生きとした表情で朝飯を食べている。
「兄貴、今日ここに入ってくる女の子の噂知ってますか?」
「ん?誰か来るのか?」
何気ない会話と思えば、宗太郎は意外な話題を持ちだしてきた。
陸はみそ汁を飲みながら、宗太郎に質問し返す。
「噂って何だ?」

「その女の子、マーメイドって言われてるんですよ。」

「はぁ!?」
陸は思わず箸を止め、胡座に座りなおして話を聞き始めた。

「たまたま施設員の話聞いたんですけど、何でも前の施設で設置されていたプールで溺死する子が多かったらしく……。プールに入った子供は100%死んでいたんですけど、その女の子だけは、入っても死ぬことはなかった。それで付いた名前が、“死のマーメイド”。見た目の美しさとは違い、何かを隠し持っている不思議な女の子らしいです。」

宗太郎は微笑み、再び朝飯を食べ始める。
「所詮、噂話しだろ。」
陸はため息をつきながら、朝飯を食べ始める。だが、心のどこかで不穏な気持ちが漂っていた。
何か、何か、何か感じていた。


────────


日曜日の昼過ぎ、施設の大きな鉄門が開いた。陸と宗太郎は、陸の部屋の窓から、その光景を見ていた。
門から一台の軽自動車が入り、施設員と施設長が普段いる建物、通称“タワー”の前に停車した。タワーの中から、施設長が出てくる。
施設長はまだ30半ばの若い女性、(祇井 菜々華)という人物だ。

「ようこそ、光川孤児院へ。」

祇井は後部座席にいた女の子に手を伸ばし、女の子は祇井の手を握りながら車を降りた。
「ほな、よろしく頼みまっせ!!」
「分かりました。では……」
関西弁を喋る運転手は一礼すると、そのままバックして施設から出て行った。
祇井は女の子の手を握り直し、笑顔でタワーの中へと入って行く。

「なんだよ、あんまり見えないし……」

宗太郎は不貞腐れたが、陸は違った。

陸は半狼人間であるため、視力は人間の3倍ほど優れている。
目を凝らして陸は女の子を見た。
女の子は身長160程度、表情は凛としており、陸はその女の子に惚れてしまった。

「可愛い……」

「え?」

陸の呟きは宗太郎に聞こえたらしく、宗太郎は首を傾げながら怪訝な表情を見せた。
「何か言いました?」
「い、いや!!何も!!」
陸は顔を真っ赤にしながら、自身の部屋から出て行った。