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Re: 『 W O L F 〜ウルフ〜 』  ( No.3 )
日時: 2010/12/19 18:45
名前: グミ (ID: U3CBWc3a)

【002】


「んで、実験体Wの所在は分かったのか?」


数百ものモニターが埋め込まれた壁、天井には見たことのない程の大きさのシャンデリア、そして、中央には玉座に似せた椅子に座る若い男性。
「ま、まだ捜索中ですが、確実に東京に滞在中です。」
「そうか……頼むよ。」
若い男性は赤いネクタイに漆黒のスーツ、髪は派手な赤色でオールバックで整え、右目の下に猫に引っかかれた様な生々しい傷がある。
「了解しました。黒条本部長……」
ブルブルと震えながら、一礼をした男性は部屋から出て行った。
「さてと、実験場“アルファ α”に回線繋いでくれる?」
「了解。」
モニターの前に座る女性は、モニターの前にあるパソコンの前に座り、キーボードを操作する。
すると、全てのモニターが一瞬で切り変わった。


『こちら、政府直下特別実験施設実験場“アルファ”です。ご用件は何で御座いましょうか?』


モニターが切り替わった途端、スピーカーから女性の声が聞こえてきた。
「遊山はいるか?」
『現在、遊山科学庁長官は不在で御座います。』
玉座に座る(黒条 竜王)はその言葉を聞くと、大きなため息をついて首を横に振る。
「じゃあいい。実験Eの進行具合は?」
『良好ですが、やはり実験Wや実験Mと同じで、失敗の方向に進む確率は高いです。』


「回線を切れ。」


黒条は目つきを変え、パソコン前に座る女性に言い放った。直後に、実験場との回線は切れた。
「結局、実験は失敗に終わるのか……」
「分かりませんよ。実験Kは成功したではないですか。」
パソコン前に座っていた女性は立ち上がり、黒条の前まで歩み寄ってきた。女性はスタイルが良く、顔も整い大人の中の大人の雰囲気を漂わせている。だが、どこか寂しそうな目をしていた。
「明日香、君は引き続きこの場の担当をしてくれ。」
黒条は立ち上がり、背伸びをすると部屋から出て行った。


───────


光川孤児院


“死のマーメイド”と噂される女の子が来て数時間、陸は部屋の前の廊下にいた。廊下の窓から景色を眺め、時間が経つのをのんびり待っていた。だが、時間は簡単には進まない。
「兄貴、どうしたんすか?」
「何でもないよ。てか、兄貴って呼ぶな。」
「兄貴♪」
宗太郎は陸の注意を無視して言い続ける。陸はため息をつきながら、先ほどの女の子の横顔を思い出す。
凛とした表情、丸い目、綺麗な肌……
「宗太郎、俺って変態か?」
「適度じゃないですか?」
「おいおい……」
陸は振り向き、宗太郎の首を遊び半分で絞める。宗太郎は笑いながら抵抗している。
じゃれていると、廊下の向こうからコツコツと足音が聞こえてきた。

「じゃあ、ここがあなたの部屋よ。」

「分かりました。」

陸の隣の部屋に、先程の女の子が入って行った。施設員である(西 美奈子)は2人に気が付き歩み寄る。
2人はじゃれあうのを止め、顔を合わせて西に駆け寄った。
「あの女の子は?」
「関西の施設から来た女の子。名前は(水摩 弓華)ちゃん。陸君と同じ中学3年生。仲良くしてね。」
西は笑顔で言うと、振り向いてタワーの方へ戻って行った。


「水摩……弓華………」


陸は宗太郎の顔を見る。宗太郎も陸の顔を見た。
「行きますか?兄貴?」
「兄貴って呼ぶな。」
陸はドキドキの気持ちで胸を膨らませ、宗太郎と共に弓華の部屋のドアノブに手を伸ばした。