ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 鬼に惑わされし者 ( No.21 )
日時: 2010/12/24 15:38
名前: 愛鬼茱萸 (ID: CsDex7TB)

第四章 ≪別れ≫

…どんなに敵を斬ってもこの世界は全然変わらないのか…
国を救うなんて大層な大儀はさらさら持ち合わせてはいないが、この世界を…目の前で哀しみに暮れる人を護りたくて剣を振ってきた。この身を血に染め上げ、何かを護るため戦ううちに僕は『夜叉』と呼ばれた。けれどこんな近くで……こんな目と鼻の先で子供を汚す『夜叉』が…

          —…『鬼』が………———
                      …生きている…

人間の皮をかぶって……

「なんで…泣いてるの?」
そう言われ初めて涙を流していたことに気づいた。つぅっと頬を伝う濡れた感触。戸惑っている間に腕の中の子供は そっと僕の頬に手を沿わせてきた。
「泣かないで……ね?いい子だから…いいこ……」
涙に濡れた顔に笑みを浮かべて子供は見上げる。その可愛らしい仕草を見て、僕は泣きながら子供をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん…慰めるつもりが……慰められてる…カッコ悪いな。…お前年は?名前何て言うんだ?」
「さいとう あゆむ。今年で五だよ。お兄さんは?」
「僕は葉兵。中野 葉兵だ。お前もそう呼びな?…歩武は今年で五歳かぁ…もう少し大きいかと思ったが…ちゃんと食わしてもらっているんだな。」
「ご飯ならちゃんと食べてるぞ!!ちょっと嫌いなものも多いけど…でもすぐに大きくなるはずだ!!」
ふんぞり返る歩武に僕は吹き出しそうになるのをなんとかこらえる。僕はひざに乗った歩武の腹に手を回してしっかりと抱き寄せる。子供特有の高い体温が心地よかった。
「歩武はどこに住んでるんだ?」
「この先の鬼仮村(おにかりむら)だよ!ちっちゃいけど、いいところだぞ!私 村で二番目くらいにおっきな家に住んでるんだぁ!」
自慢げに言う歩武を見ながら僕は軽い相槌を打つ。そのまま他愛もない話を続けて1、2時間位経った頃だろうか。すっかり僕に懐いた歩武が僕の上で足をプラプラさせながら、きらきらとした瞳で僕に聞いてきた。
「葉兵はどこからきたの?」
「……あっちの方だ。あの森の向こう…危ないからお前は来てはいけないぞ?な?」
そのまま放っておけば確実に僕に会いに来そうなその瞳に向かって釘を刺す。自分自身連れて行きたいのはやまやまだったが、子供を養うだけの力は僕にはない。それにこの子自身 そんなことは望まないだろう。歩武はまた泣きそうな目をしていた。
「葉兵…もうここにはこない?私…もう葉兵に会えないの…?」
「そんなことはない。また来る…歩武は僕のこと好きか?」
「好き!!葉兵は?」
「僕も好きだよ?さて…もう遅いから帰らないと。歩武は一人で家へ帰れるか?」
「…うん…帰れるよ…ホントにまた会える?」
「あぁ…会える。約束だ。」

にっこりと笑いながら言ってやると歩武は嬉しそうに笑いながら約束と返し、僕に指を差し出してくる。僕は歩武の指に自分の指を絡めて、
『指きりげんまん』の歌を歌うと歩武と別れた。