ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼に惑わされし者 ( No.34 )
- 日時: 2010/12/28 20:32
- 名前: 愛鬼茱萸 (ID: CsDex7TB)
第六章 ≪さよなら…?≫
「うっく…いやっ…来るな…っひっっっ!!!っあ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛ああっ!!!!!」
村の納屋の隅でうずくまりながら歩武はガタガタと震えていた。目の前で自分の一番の親友が殺されたのだ。無理もないだろう。数ヶ所小刀のような物で刺された後、首を一気に裂かれた彼女から断末魔の悲鳴が聴こえる。そのまま血を流し、ぐったりと倒れた少女を見て敵たちは舌打ちをした。
「…っち…人間ってのはどうしてこうあっけなく死んじまうもんかねぇ…もう村の者はいねえのかぁ?」
「そうは言ってもよぅ。殺すのが楽しすぎてほぼ殺しちまっただろ?人っ子一人いねえはずだぜ?」
その台詞に歩武は急いで藁の中に潜り込むと自分の口を抑える。ガタガタと震えながら必死で気配を消そうとした。だが無慈悲にも敵たちは歩武の隠れた納屋に入り込んできた。
「なぁんかよぉ…この辺で妙に気配がするんだよなぁ…」
「あぁ、違いない…生きている…人間の。」
敵の一人が藁の山へ手を突っ込む。藁の束を掴んでざっと割けるとニタリとした笑みを浮かべた。
「また子供か…まぁいい。お前、年いくつだ?名前は何て言う?」
そう聞かれても歩武は震えるばかりだ。うまく言葉を繋げずにいると、もう一度名前は?と聞いた。
「あ……………あ………ゆ………っっっ!!!!」
「あゆか…美人だなぁ。将来楽しみだが見れなくて残念だなぁ…あばよ。あゆちゃん…」
腕を押さえつけられ、歩武は目を瞑る。ぶるぶると震えながら叫んだ声は自分でも驚くほどの大きな声だった。
「いやッ…!やだッ!!!助けて…っ!よ…へい…助けてぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
その瞬間に自分を押さえつけていた力がふっと消える。ぐらりと崩れ落ちた敵たちは首が消えていた。
「あ………?」
「待たせた…大事ないか?歩武。」
「よぅ…へ、い?」
震える体を抱き上げてやりながら葉兵はふわりと優しく微笑む。その顔を見て何かのたがが外れたのか歩武は葉兵にしがみつくと、全身で泣き出した。
「わぁぁあああぁあああ!!!葉兵ぇぇっっ!!怖かったぁぁっ!!怖かったよぉ…っく、ふぇっ…えぇっ!!!」
「もう大丈夫だ…大丈夫だからな?」
歩武を抱き上げたまま葉兵はゆっくりとした動作で歩き始める。
そのまま村を抜けて戦火のまだ届いていない村を見つけると、大きいが古ぼけた剣術道場の前で歩武を降ろした。
「葉兵…?」
「…悪いがここでお別れだ歩武。ここならお前を傷つける者は何もない…朝になったら道場の人が起きてくるだろうから、ちゃんと事情を話して面倒をみてもらうんだ。お前なら出来るな?歩武…賢いもんな?」「葉兵と…もう、会えないの?」
やっと涙が止まったと言うのにまた歩武の目には涙が盛り上がっていた。それを優しく拭ってやりながら葉兵は笑った。
「大丈夫…この戦争さっさと終わらせてまた会いに来る。…平和になったらお前を迎えに来るから。…そうだな…あの杉の木の下でもう一度会おう。約束だ…な?」
「ホントに…?」
「あぁ。約束だ…だから笑って?な?」
「…よう、へい…っ」
「お願いだ…笑って、歩武…。」
そう言われて歩武は涙でぐちゃぐちゃの顔を無理にでもほころばせる。その笑顔に葉兵は満足気に笑うと優しく頭を撫でた。
「いい子だ。…いい子…会えなくても僕はお前を守るよ…お前の苦しみや痛みは全部僕が消してあげる。 …全てが 終わったら…
必ずお前を貰いに来る…だから…」
今 は お や す み・・・・
そう囁きながら葉兵は、歩武の額に口付ける。歩武はその瞬間に意識を失った。
【前編 終了】