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Re: 鬼に惑わされし者 ( No.46 )
日時: 2011/01/11 20:46
名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)

第八章 ≪発見者≫

取調室にいた人間を見て歩武は重いため息をつく
「え?おい、何で寝起きなんだ斎藤くん。もう昼過ぎだぞ?さすがの僕でも起きている時間だぞねぼすけが。こんな時間まで寝るとは公務員とは随分といい身分なんだな。」

取調室の椅子にだらしなく腰掛けている人物を見て歩武はいらいらと煙管を取り出す。目の前で揺れる茶髪を睨み付けながら言った。
          
「うっせえ。私は女だ。斎藤くんじゃない!それと、私は夜勤だったんだよ…報告書まとめて見廻り行って寝たのが朝五時過ぎで…てめぇみてぇなプー太郎とは働いているキャパが違いすぎるんだっつの。…で?お前が死体を見つけたってのは本当か?」
「あぁ、何か胸糞悪い…首なしだぞ?首なし。従業員の二人がいなくってよかった…あいつらまだ十五、六だからな。…犯人の目星とかはついているのか?」
「ついてたらこんなまだるっこしい事してねぇよ…中野、何か怪しいモンとか見なかった?」
「見てたらそんなこと聞かない……なぁ、斎藤…」

急に声が沈んだような気がして、歩武はその顔を覗き込む。その瞬間に腕を掴んで引き寄せられた。
「おわ…っ中野!何してっ…」
「あまり無茶をするな。お前に傷なんかつかれると僕は…悲しすぎてやりきれない。…あと危なくなったら呼べよ?いつでも駆けつけて守ってやる。…な?」
「プーなんかに守ってもらう必要なんてないから…っ。」
「あっそれひどい!僕だっていざとなれば頑張るぞ?マジで。」

拗ねたように口を尖らせる彼を見て歩武はふっと顔を緩ませる。くしゃっとその頭を撫でてやると、その目を覗き込んで言った。
「そんなのとっくに知ってる……分かった。もういいぞ?わざわざご足労だったな、帰れ。」
そう言われたのに一向に歩武の腕を離す気はないらしい。離せという歩武の唇に自分の人差し指をあて黙らせると笑いながら言ってきた。
「二時間も人を待たせといてそれだけか?割りに合わない。」
「はっ!?何言って…」
「今度僕の田舎の近くで祭りをするんだが…デートするか?」
「いな……か?」
「あぁ、昔やんちゃしていた頃よく立ち寄ってたんだけどな。鬼仮村って村の境にある神社でやるんだ…小さいけど結構楽しいぞ?」

そう言われて歩武はしばらく考え込んだ。鬼仮村…以前どこかで聞いた気がする。だが思考を遮るように話しかけられて、結局思い出すことが出来なかった。

「なぁ行こう?歩き回って旨いもの食って境内で色々…」
「最後は余計だ!!」
「ちょっとそれは無いんじゃないか!?僕等相思相愛だろ!付き合ってもう二ヶ月だろぅ!!!」
「誰と誰が付き合ってるだぁ!!変な言いがかりはよして!!」
「じゃあ相思相愛はマジってことか?」
「っ!」

指摘されたことに歩武は顔を真っ赤に染める。にやにやしながら、ふーんそうなんだ〜と返す声に被せるように歩武は大声をだした。
「だぁもううるさい!!!行ってやるから黙れ!!」
「え?行ってくれるのか?」
「…二時間も待たせたのは確かだし…その埋め合わせになるってんなら行ってやる。」

罰が悪そうに言ったとたん、ぎゅっと抱き締められる。耳に唇を寄せられたかと思うと低く甘い声が忍び込んできた。
「すっげぇ嬉しいよ歩武…絶対行こうな…?」
「ッ!!変な声出すなバカ!!」
「その割には顔赤いし〜?」
くすっと笑いを含んだ声で囁かれて、歩武はカッと頭に血が上るのを感じる。突き飛ばすように身を離すと急いでドアを開けた。

「ッさっさと帰れ!」
「いってー…はいはい、さっさと帰りますよ。あ!歩武。」
「なに?」
「僕のこと好き?」
「んな恥ずかしいこと言えっか!!」
真っ赤になって出て行く歩武を見て笑いが漏れてくるのを止められそうになかったらしい。ゆっくりと立ち上がりながら一人呟いた。

「やーっぱり可愛いよなぁあの子…ホントに可愛い。全然汚れてもないしな…今まで守ってきた甲斐があった…ホント…」

その先を言うことなく彼は部屋を出て行く。警備の人間はどうやら寝ているらしい。それを起こすことなく、するりと奉行所から出て行った。


「さて、帰るとするか……………楽しみだなぁ……祭り。」