ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼に惑わされし者 ( No.49 )
- 日時: 2011/01/21 19:58
- 名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)
第九章 ≪新たな被害者≫
「あぁひでぇ。まただぜ、また。」
「またってぇとあの『首斬り』かい?」
「河川敷らしい。出前蕎麦屋の彦さんが見つけたそうな。」
ざわざわとさざめき合う人々の間を縫うようにして奉行服を着た少女が進んでくる。それを見つけた歩武は引き締まった顔をそちらに向けた。
「はぁいちょっとごめんよぉ〜。通してねぇ…っと、『首斬り』ですかぁ?歩武さ〜ん。」
「あぁ、昨日の夜に殺られたらしい。しかも今回の奴は今までの小物とはわけが違う。
「わけが違う?…ッこいつって…!!!」
「うん…中野の戦友だったって…ッ『杉本 信也』!驚いたって言うもんじゃないよぉ…」
「私たちが追ってた中の一人よねぇ…しかも浪士たちの代表的な奴だしぃ…」
首は無いが長年の追跡の結果だろう、一目でそれと分かる変わり果てた姿に日向は絶句する。血染めになったそれを見ながら歩武は日向に問う。
「どう思う?日向。」
「同じ浪士同士の争いじゃあなさそうですね〜…杉本を殺れる奴なんてそういないもの〜。今そこまでの大物が江戸にいるって情報もないし〜…」
「浪士同士がどうだなんて聞いてない。コレをどう思うって聞いてんの。」
歩武が指差した先…杉本信也の握り締めている拳を見て日向は首を傾げる。歩武は眉間を寄せながら静かに口を開いた。
「こんなの…血染めの茶髪なんて滅多にお目にかかれねぇよなぁ…?茶髪なんて珍しい毛色…江戸には一人しか…アイツの店には私が行く。」
「歩武さん?あなた何…」
「返答次第によってはアイツを斬る。」
そのまま何も言わずに人混みをかき分けながら歩いていく歩武に、日向は何も言えず呆然と立ち尽くしていた。
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数刻後。『葉ちゃんクリニック』という何ともネーミングセンスのない店の前に歩武は来ていた。
もし………もしアイツの刀に血の匂いが残っていたら。
震える手で何度も引き戸をノックする。ノックの音に紛れて低い声がする。歩武は乾ききった喉をなんとか動かして声を発した。
「中野…いるか?」
「はいはいはいはい、何度もノックしなくても聞こえてますよ。クリニックはお昼から営業してますんで、また出直してきて…って斎藤?」
ガラリと音をたてて引き戸を引いた瞬間に見えた顔に、中野は一瞬目を丸くする。その後花を開いたような無邪気な笑みを見せる彼に何故か寒気を憶えながらも歩武は強気な声で話しかけた。
「あのね中野…お前昨日の夜何してた?」
「えー?昨日の夜…飲み友達と飲みに行って途中でもう一人の飲み友達と合流してまた飲んで…今マジで二日酔い…うっぷッ」
「ぎゃあああああ!!!!吐くなぁ!!吐くなって気持ち悪い!!!」
「だって飲まないと失礼だろう。…うっ」
本格的に吐きそうな中野に歩武は頭を抱える。重いため息をつく彼女に、中野は真っ青な顔を不思議そうに傾げた。
「…で?何で僕のプライベートを聞きたがる?何かあったか?」
「杉本が『首斬り』に殺られた…首を斬られた奴が握り締めているモノに血染めの茶髪が数束見つかっている…なぁ中野。本当に昨日はそいつ等と飲みに行ったのか?」
「葉兵。」
「……………は?」
「中野じゃなくて『葉兵』だ。いい加減名前で呼べ。歩武…」
「ッ!!!今はそんな事言ってる場合じゃないだろがぁ!どうなんだよ中野!!」
「僕にとっては大事なことなのだが?やっぱりいい加減名前で呼んで欲しいものだな、好きな子には。」
「何でお前……杉本が死んだってぇのにそんな平静なんだよ……ッ!」
その瞬間に透き通った少女の大声が聞こえ、歩武はビクリと震える。振り返るとそこには焦りきった京香の姿があった。
「歩武さん!大変なんです!!」
「どうしたの?!」
「浪士達数名がテロ行為により殺害されました!!!『首斬り』の仕業かと思われます!!」
「何?!今すぐ行くから!!場所は?!城?!広場?!路地裏?!」
「落ち着いて下さい歩武さん!!…そのどれも違うんです。美条屋という秘密裏の遊郭です。…傍にいた遊女ごと…っ酷いっ!!」
京香のもとに走りより、そのままクリニックを出て行こうとする歩武の腕を中野はがしっと掴む。何だと振り返る彼女の額に自身の唇を当てた後で中野はニっと笑った。
「祭り……今夜だからな…?約束したんだから絶対行こうな?」
「…分かった!分かったから離せ中野!!!」
少し怯えたような目をした後で、歩武は中野の腕を振り放す。そのままパタパタと地を蹴り走って行く音を聞きながら中野はくつくつと笑っていた。
「だぁから葉兵だって言っているのに…まぁ仕方ないな。≪思い出してしまう≫もんな…… さて、準備は整った…後は……」
後は………………………………………ダケ。