ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼に惑わされし者 ( No.61 )
- 日時: 2011/01/24 20:53
- 名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)
第十章 ≪容疑者A≫
数時間後。
歩武は豪奢な料亭の中へ足を踏み入れる。表向きは料亭ということになっているが、秘密裏の遊郭ということもあって、中は朱塗りの柱に黒の天井という造りになっている。
だが朱塗りの柱など関係ないくらいに真っ赤な世界が目の前に広がっていた。
「ひどいな…これは」
悲劇の舞台を目の当たりにして歩武は眉根を寄せる。血に染まった体はどれもこれも首が無い。その上手足を滅多刺しにされていた。先に来ていた日向は、歩武に低い声で話す。
「かなり酷い状態ですね〜…死体の状態を見た限りじゃあ、今までの『首斬り』と同じ人物なのか違うのか決めかねますけどぉ。でも今回はまだラッキーな方ねぇ。」
「……え?」
「遊郭の人間全員を殺してるわけじゃないみたいですよぉ?奴ら『伝言』を残して行きましたぁ…ほら来な〜?」
おそらく14,5人だろう。小柄な少女が震えながら日向の傍にやってきた。
「奴ら歩武さん宛てに伝言を残していったそうよぉ〜?そうだよねぇ?」
「は…………はい。斎藤様が現れたらこう言えと…
『おかげで楽に仕事が出来た、礼を言う。是非とも礼がしたいから、約束していた祭りに一人で来い。来なかったら殺すだけだ』…と…」
「………そいつはどんな奴だったの?」
「じ、女性の方なのに男性物の着物を着てらして…とても短い髪で、瞳の色が紫色で…恐ろしいくらい鋭い目をしてらっしゃいました。あの方に睨まれた瞬間、身の毛がよだつほど怖くて怖くて……殺される…あたしも殺されるんだって…ひっ…く、ふぇ…っ」
ぶるぶると震えながら泣き出す少女を京香に預けると、歩武は煙管を口にした。それを無言で見ていた日向が重い口を開いた。
「…………行くんですかぁ?」
「……………………行かなきゃ事件は解決しないだろ。」
「まぁ歩武さんが生きようが死のうが私にはどうだっていいけどぉ。お父上が悲しむのよ〜…歩武さん一人で行かせるわけにはいきません〜」
「けど相手はおそらく『藤田 鈴那』だ……中野の元交際相手、剣の腕もかなり長けている。約束を違えたことを見逃してくれるような奴じゃないでしょ。」
「だからってあんた一人で行って犬死にでもするつもりなのぉ??!!!それじゃあ困るのよぉ!!!!!お父上も私もねぇ!!!」
胸倉を掴んで怒鳴ってくる日向に歩武はふっと笑う。何がおかしいんだと言う日向に歩武はふーっと煙を吹きかけた。
「ゲホッ!!何すんのよぉ!!」
「どうせ釘刺しても追っかけてくるんでしょ?今の血の気の上ったお前じゃあ一秒と待たずに見つかるよ?やるんならしっかり気配消せよ?」
「……………………」
「そう心配すんな。私はそんなやわじゃない、絶対無事で帰ってくるから。それにアイツもい……」
そう言いかけて歩武はハっとする。祭りへは一人で来いと言っていた…
…一人ってことはアイツは……?
「ッ!!!!!!中野!!!!!!!」
そう吐き捨てて走って行く歩武をみんなは呆然と見つめる。はっとしたように気づいた日向は、歩武さん!と叫んで彼女の後を追った。