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Re: 鬼に惑わされし者 ( No.73 )
日時: 2011/01/26 14:11
名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)

第十二章 ≪祭り≫

なぜか…………なぜか分かる。
あの道もこの家々も……すべて記憶の隅に……そうだ。

        私はこの光景を見たことがあるんだ。

「ハァッ…はぁっ、はぁっ…」

握り締める手が汗ばむのを歩武は止めることが出来なかった。
役人なのにと眉を顰められそうな勢いで駕籠屋を飛ばさせる。ぐんぐんと飛び去っていく景色と、荒くなっていく自身の息が耐えられないほど耳障りだった。

「ッ……無事で……無事でいてッ………中野ッ!!!!」

村の入り口に差し掛かったところで歩武は駕籠屋を止めて話す。

「もう…いいッ…ここで降ろしてっ!帰ってもいいから…っ!」
「あの…お代は?」
「っ!!後にしろ!!」
「は、はい!」

怒鳴り散らされ、怯え帰る駕籠屋が視界から完全に消え去ると、歩武は村の入り口を見て呆然とした。

『鬼仮村』と彫られた石の柱は錆びつき焦げて黒く変色していた。

「祭りが…………あったんじゃないのか…?」

かろうじて村の残骸が残っている程度の光景に歩武は愕然とする。
そこには葉兵に誘われたはずの祭りはおろか人の気配すら感じられなかった。

「…何なんだよ…どうなってんのよ一体……っ!!!」

残骸に混じって転がる物に驚愕する。夥しいほどの白骨が転がっているのだ。
その種類は人のものから動物のものまで幅広い。
それが月明かりに照らされて不気味に光っていた。

「かなり月日が経ってる…何でこんな大量の骨がある…?それにこの臭い……」

錆こけて古びた残骸の山々に累々と続くボロボロの白骨死体。
普通ならこんな…こんな生々しい血の臭いはしないはずなのだ。なのに辺りからは濃厚な血の臭いが漂っている。

歩武は眉を顰めながらも葉兵に言われていた神社へと足を向けた。