ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼に惑わされし者 ( No.74 )
- 日時: 2011/01/26 19:58
- 名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)
第十三章 ≪記憶≫
薄暗い神社の前。
鈴那はどさどさと斬り落とした幕臣の首や自分の仲間、友達の首を石畳にぶちまけると笑う。それを無感動に見ている葉兵に抱きつくと、甘えるようにすりついた。
「ねぇ…葉兵の言うとおりやったよ?…だから……」
「いい子だな、鈴那。お前は本当に可愛い…昔から僕のこと好きだったもんな〜…いいぞ。ご褒美、やるよ…」
「ッ……葉兵ぇ…好き…だから………ダカライッパイ刺シテ?」
睦言のように甘い声を出して抱きついてくる鈴那を葉兵は優しく離す。
その言葉にふっと笑うと、鈴那の腰から刀を抜いて彼女の腹に突き刺した。
「ぐッがはっ…!もっと…もっといい…よ?…うっ…ぐ…かはっ…」
腹の次は腕、腕の次は足、手、指。
次々に貫かれる部位からは 真っ赤な血の華が咲いていく。
鈴那はふわりとした表情を浮かべながら、葉兵に纏わりつく。
「あっ…ぐ…ねぇ…っ葉兵ぇ…こ…れで…やっと、貴方と一緒っ…!!!」
胸と首に紅い華が咲く。うっとりとしたまま倒れ付す鈴那の髪をさらりと梳いてやると、葉兵は溜息混じりに言った。
「…ごめんな?お前のことも好きだが、一緒になる気はないんだ…僕が守りたいのは……僕が一緒になりたいのは………」
「…………よ………………う…へ………い…?」
そう………………僕が一緒になりたいのは……この子だけ。
「……見られちゃったか…なぁ歩武………思い出した?」
にっと笑うその顔と、バックの神社を見て歩武は目を瞑る。一気に記憶が甦るのを感じていた。
—子供の頃によくこの杉の影で泣いていた。父親に殴られ、母親に妬まれ嫌われて…誰も助けてくれなかった。独りだった。そう……
彼に会うまでは。
「葉兵…………そうだ…守ってくれるって…終わったらここで会おうって言ったの…お前だったんだな…何で私忘れて…?」
「言ったろう?お前の苦しみや痛みは全部消してあげるって。平和になったら、ここで会う約束…なぁ歩武…これで全部だよな?」
何が?と聞こうとした歩武を見ながら葉兵はにっと笑う。鈴那の死体を掴むと、首と胴を一気に切り離した。
「ッ!!!!なっ…なにして……」
「これで全部…………お前を…今の役人としてのお前を苦しめている奴は全部消してやった。ようやく平和になったな、歩武…」
鈴那の首をぶら下げながら葉兵は笑う。その首を目の前の杉の木まで持っていくと、木の胴に巻かれたしめ縄に髪の毛を使って結びつけた。
「……なぁ、この杉ってさぁ…鬼を閉じ込めているんだぜ?」
「…………なに、言って…」
「僕なぁ、鬼と契約したんだ……あの時…敵に囲まれて、もう駄目だと思った瞬間…力が欲しいと思った。お前を、歩武を守れる力を…その時ね、声が聞こえたんだ。………………鬼の」
にっと笑う葉兵の上を、白い月の明かりが照らしだす。
その光景を見て歩武は、ヒッと息を呑んだ。
「助けてくれるって鬼は言った。でもそれには代償を払わなきゃならない…鬼はね、人を喰うもんだろ?」
大きな杉に巻かれたしめ縄から、ぽたぽたと血が垂れている。
今まで歩武が追っていた事件の被害者たちや浪士の生首が、累々とそこにぶら下がっていた。
「あ……………………あ…………っ」
「やっぱり鈴那は杉本の隣だな…こいつら仲良かったからな。…力を貰う代わりにな…こうやって供え物を捧げないといけないんだよ。まぁ僕にとっては一石二鳥なわけだが………ほら…………鬼がこうやって血を啜ってくれる。歩武を苦しめるような下種な考えを持った悪い者は…全部消してくれる…」
そう呟きながら葉兵は、鈴那の首を掴む。
どろりと伝わる血を啜ると、手の甲で口元を拭いて歩武に向き直った。
「ッ!!!!!!!!!!」
「…なぁ歩武…一日たりともお前を忘れることはなかった………………………鬼の力を借りちゃいるけどね。…そしてやっと…やっとお前は僕を思い出してくれた………」
「よ……葉兵…………ッ…」
「ねぇ…何で泣きそうなの?歩武…僕約束守ったよ?お前を哀しませるモノは……お前を苦しめる悪い奴らは、みーんな鬼に喰わせてやった……だから…………だからさ」
オマエヲ頂戴…?