ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼に惑わされし者 ( No.81 )
- 日時: 2011/01/27 20:14
- 名前: 愛鬼茱萸 (ID: nnVHFXAR)
第十四章 ≪鬼ノ正体≫
ふわりとした笑みを向けながら葉兵は歩武の側に歩いていく。
月明かりに照らされたその姿は、対照的な赤と白。鈍く輝く茶髪は、鮮血にまみれて真っ赤だ。
爛々と輝くその瞳は血の色だった。
「おっ………………鬼………っ」
「違うでしょ?鬼は僕じゃない…あの杉の中にいるヤツ」
「ちっ………違う………」
「え?」
「あの杉はっ……あの杉はそんなんじゃない……豊作を願うための神様がいるって、お父さんが言ってた…っく、ひ……ッ…」
子供の頃の記憶がどんどん体を侵食していくのか、歩武は崩れ落ちるとぽろぽろと泣き出し始める。
子供になっていく彼女を見下ろしながら、葉兵は両手を掲げて呆然とそれを見下ろしていた。
「え?………じゃあ……あの声は………………この力は?」
………………………………鬼は他の誰でもない………………
そう、 僕 自 身。
「あは……あはははははは……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「よ…葉兵?」
「はー馬鹿みたいだ。そうだよな…現実主義者の僕が、よりにもよって……鬼のせいにして責任逃れなんざしてたら、人が笑う。そうだ…僕が……僕がみぃんなやったんだ………………みぃんな殺して……………みぃんな食べて……吸い取って………ぜんぶ…………ぜんぶ………………ぼくのナカに汚いモノがツマッテル………………ツマッテ……………ヤダ………………いやダ…そんなっ……そんなんじゃ僕…ぼく、歩武に相応しくない……いやだ………いやだ………………いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ボロボロと涙が流れていくのを、葉兵は止めることが出来ない。
必死で中のモノを吐き出そうとしているのか、嘔吐の声が哀しげに響きわたった。
「泣かないで………泣かないで、葉兵…」
「………………あ……ゆむ…?」
「いい子……いい子だから………………ね?」
「歩武!!!!!」
葉兵は、ぎゅっと歩武を抱きしめる。
震える身体がみるみるうちに落ち着きを取り戻していくのが分かった。 あぁ………………また…助けられてるな、僕。
「………………いいよ。」
「え?」
「いいよ…あの時から私は葉兵のものだ……お前が助けてくれなきゃ、私は死んでた。お前が守ってくれなきゃ………駄目だった。だからいいよ………………お礼だ………………私を………私をあげるよ…それで葉兵が救われるんなら軽いもんだ」
するりと歩武は自分の刀を抜く。
葉兵の手にそれを握らせると、首に押し当てさせて一気に引いた。
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ビシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!
首から、真っ赤な真っ赤な大輪の華が咲く。
血まみれになりながら 呟いた言葉は た だ 一 言 だ け……
ズット………………一緒
優しい口付けの後で、自分を喰らう感触が生々しく響く。
その頭を残りの気力で優しく撫でながら、歩武は静かに目を閉じた…