ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 『神旅。』 ( No.12 )
- 日時: 2010/12/27 16:10
- 名前: 空駆ける天馬 (ID: U3CBWc3a)
- 参照: http://ちょっと訂正しました
【第4話 5遁神魂】
バシャ バシャ
「さ、寒い………」
電車から川に飛び込んだ十郎とコヨルは、大急ぎで川から飛び出した。4月の末とはいえ、川の中は寒い。
2人は鉄橋の下で息を荒げながら座りこむと、震えながら辺りを見渡す。
墓参りの帰りなので、拭く物は勿論、ライターも何もない。
『大丈夫か?寒いじゃろう?』
「神は寒さを感じないのか?あんな低温の川に飛び込むなんて、馬鹿しかやらないよ。」
十郎は立ち上がり、とりあえず濡れた状態で鉄橋の下から上を見る。人の気配も何もしない。
「それより、さっきのは何だよ?知り合い?」
『いや、知らん。だが、あいつは恐らくわし狙いじゃろう……』
「当然だよ。俺が狙われたら理解できない。」
十郎は歩き出し、坂を上って普通の道に出た。見覚えのある道らしく、十郎は川を見ながら足を進める。
コヨルも十郎の隣を歩き、2人の間に無言の状態が続いた。この静かさを破ったのは、コヨルであった。
『電車で襲ってきた奴は、ただの差し金じゃ。混沌の神カオスを知っておるか?』
「名前は聞いたことしかないよ。」
『そやつは、唯一魂と魂を混ぜ合わし、“融合神”を創れる神であり、最強の神じゃ。』
コヨルの言葉を聞いた瞬間、一瞬十郎は唖然とした。なぜ、そんな説明を始めたのかが分からない。
「で、なんでそんな奴にコヨルは襲われるの?」
『わしが、最低の神じゃからじゃよ。』
コヨルは足を止め、十郎の顔をじっと見つめる。十郎も足を止め、コヨルの黄色の目を見つめる。
「どういうこと?」
十郎が首を傾げて聞くと、コヨルは深呼吸をして喋り始めた。
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神旅______
人々は世界で生きていくことを「人生」と呼ぶが、神は世界で生きていくことを「神旅」と呼ぶ。
神は魂で世界を彷徨い、適合者の体に宿って生きていくことになる。神に肉体はない。
だから、見つけないといけない。寄生虫の様な感じだが、それが神が世界で生きていく方法なのだ。
そして、その適合者が死んだら違う肉体に入る。それを繰り返す。終わらない旅の様なものだ。
しかし、その方法を破った5人の神がいた。
適合者の肉体に入れば、適合者が死ぬまで宿らないといけない。なのに、途中で抜け出した5人の神。
これは神の社会にとって、重罪の中の重罪なのだ。理由は簡単。
適合者が死ぬから─────
5人の神は、罪もない人間を5人殺し、違う肉体に入った。全ての神に一瞬で伝わり、彼らは逃亡の身となった。
その5人は「5遁神魂(ごとうしんこん)」と呼ばれ、神の社会中では指名手配犯なのだ。
その内の1人は、星の神コヨルシャウキと判明し、コヨルは電車で襲われたのだ。
━混沌の神カオス━は、神の社会では王の存在。勿論、カオスの下には強い部下が揃っている。
*******
コヨルは一通り説明すると、十郎の瞳を見た。十郎は悲しそうな表情をすると、口をゆっくりと開いた。
「コヨルは人を殺したの?」
『そんなわけないじゃろうが。わしじゃない。だが、現場は見た。』
「え!?」
十郎は驚き、コヨルに一歩近づく。コヨルは大きなため息をつくと、深く落ち込み沈んだ。
『犯人は分からんじゃったが、魂が抜けた瞬間、その女はスイッチが切れたようにパタリと倒れた。』
「女性だったんだ……」
コヨルは拳を握りしめると、その場にしゃがみ込んで泣き始める。涙を必死にこらえているが、どうやら限界の様だ。
『悲劇はそれからじゃ!!当時、わしの適合者は死んでいる女性に駆け寄った瞬間、殺されたんじゃ!!』
「え……。」
十郎はコヨルの言葉を聞き首を傾げる。コヨルは地面を叩き、大声で泣き叫んだ。
『その女から抜け出した神によって……殺されたんじゃ。』