ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: android heroes!!  ( No.6 )
日時: 2010/12/30 01:08
名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)

「外部からの…?一体誰が…」
「そうなのよねー…まぁ被害は最小限で済んだんだけど、あたしの大切な戦闘データが根こそぎ持っていかれちゃって。」
紅葉さんの話を聞く限り、戦闘データを詰め込みすぎだとは思ったが、そこはあえて突っ込まないことにする。
昔いらん突っ込みを入れて、腹に拳を突っ込まれたことがあったからだ。
人間は経験を生かして生きていると、この時しみじみ実感したのは言うまでもない。
「機体の損傷は?」
「それがね、どこにも傷跡は無いのよ。多分だけど、ASKと情報を共有してるPCから侵入したんだと思うわ。……蚊みたいなものね。養分を吸い取って、害を与えていく。迷惑な話よ。」
紅葉さんは一通りそう話すと、大きな溜め息をついた。
娘のように可愛がってきたアンドロイドが、危機に直面している。
考えただけでも震え上がってしまいそうな状況なのにも関わらず、紅葉さんは何時もの整ったポーカーフェイスを崩そうとしない。
それは彼女なりの「けじめ」のようにも思われた。
それでこそ偉大なる使い手 紅葉なのだが。
「で、今日は夕炉は。」
「連れてこれるものなら連れてきたわよ。ウイルスは感染るでしょ?あんたのオンボロアンドロイドに感染しちゃタチが悪いじゃない。」
「なっ…オンボロとは失礼ですね…まぁその通りですけど。」
「凛のばーか」
「っは…!?」
隣を見やると、オレンジジュースを飲み終わって手持ちぶさたに足をばたつかせているメルトが文字通り膨れていた。
どうやら俺がオンボロアンドロイドだというのを肯定した事によってすねてしまったらしい。
「お前…いいご身分だなオイ…」
「まだ発売されて4年、俺がここに来て3年しか経ってないのにオンボロ扱いするとかあり得ない。最低。アンドロイドに対する愛情が足りない。」
立て続けに罵られた俺が再起動するまでに要する時間 12秒。
「っ、もういい。アルト、珈琲お代わり。」
「あたしの緑茶も淹れてくれる?」
「オレンジ飽きた。メロンソーダのアイスのったやつがいい。」
「分かりました。」
一度に大量の仕事を押しつけられても最後までしっかり、しかも笑顔を絶やさずやり遂げるアルトの忠誠心と行動力にはひたすら感服だ。
たまにはオイルでも差してやるか、なんて庶民的な考えに浸っていたとき。
つけっ放しになっていたテレビから、極端に抑揚を抑えたアナウンサーの声がふと聞こえ、思わず画面を振り向いてしまった。
「…続いてのニュースは、有機アンドロイドウイルス混入事件についての情報をお伝え致します。現場の北原さん?」
パッと画面が切り替わり、背後に巨大なモニターを湛えた映像が映し出される。
画面中央に立っている男性は、端的に事件の状況を伝えると、慌ただしく動き回る職員らしき人達を映すようにカメラマンに指示を出した。
ズームで映される男女。見覚えのあるこの制服は…
「ASKのモニタールームね…」
そうだ。職員の胸元に輝くバッジがそう主張している。
「それにしても…ウイルス混入事件?初耳ねぇ。」
「今まではウイルスに侵されて自我を失ったアンドロイドは、全てASKが回収していましたから。きっとこれだけ騒がれるって事は、ASKも処理が追い付いてないことを提示してるようなもんですよ。」
「あんたも難しい事言うわね…要するに、ASKでさえ処理しきれない量のウイルス感染アンドロイドが発生してるってことでしょ。」
「そうですね…一部の暴走アンドロイドは処理されてるみたいですけど。このままASKの処理が追い付かないままでいれば、いずれ暴走アンドロイドによる破壊攻撃が始まってしまいます…相当危険ですよこのパターンは。……紅葉さん?」
「夕炉が…夕炉が危ない…」
うわごとのように繰り返しそう呟いていた紅葉さんは、残っていた極濃緑茶をがぶ飲みするといそいそと帰り支度を始めた。
「もう帰るんですか?交換用のネジは…」
「いいわ、今度貰う。………もし何かあったらあんたに電話するから、その時は宜しく頼むわよ。…じゃ」
「え、紅葉さ
バタン
突然来て突然帰るのがあの人の流儀なのは重々承知していたつもりだったのだが、今回は流石に参った。
あんなに焦っている紅葉さんをほうっておける筈がない。
かと言ってすべき事も浮かばないし、どうしたものか…
冷め切ってしまった珈琲を啜りながら俺は深くうなだれた。