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Re: android heroes!! 〜ウイルス錯乱編〜 ( No.7 )
日時: 2010/12/31 00:53
名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)

その日の夕方頃だったと思う。
何度考えてみても答えが出せなかった俺は、諦めて酷使してしまったアルトの機体をチェックしていた。
少し腕の内側の人口皮膚が傷ついているような感じがし、工具箱から培養された皮膚とメスを取り出して怖がるアルトの目の前でチラチラとちらつかせていると、メルトが何かを手に走ってくるのが見えた。
最近新調したばかりの、真新しい俺の携帯だった。
まさかとは思ったが、一応アルトをびびらせるのは止めて電話に出る。
「…もしもし?」
少しの沈黙が、その時の俺にとっては凄く長く感じられた。
「あの
「凛!!夕炉がっ…夕炉がぁっっ!!」
「紅葉さん!?紅葉さん!!落ち着いて下さい、今すぐそちらに向かいます!」
「早くっ…夕炉がしんじゃう……っ!!
プツッ…… ツー ツー ツー
繋がらなくなった携帯を放り出して、俺は黒いコートを羽織った。
「アルト、メルト、急用だ。直ぐに準備をしろ。」
急かすつもりは無かったのだが、録画したドラマをのんびり眺めていたアルトを急かさずに誰を急かすというのだ。
幸いメルトはキッチンで冷蔵庫をあさっていたので、素早く抱え込んで車に連れ込むところまでは順調に事を進めることができた。
それで、だ。
何なんだこの車の量は…
前も後ろも車で埋め尽くされている。
とりあえず大通りに出た時はこんなに混んではいなかった。
恐らくどこかで事故でもあったのだろう、俺ははやる気持ちを抑えてぐったりとハンドルにもたれかかった。
心配そうにアルトが顔を覗かせる。
「ご主人様…この様子だとあと40分は動きませんよ…?」
「う…ん、どーすっかなぁー…」
盛大に溜め息をつくと、後部座席にうずくまって景色を眺めていたメルトが突然口を開いた。
「…今ざっと交通情報調べてみたんだけど、この近くに有料の駐車場があるからそこに車停めて、最寄りのバス停から桜井町まで行けば10分くらいで着くよ。」
「それ本当!?」
驚いたようにうずくまったままのメルトを振り返るアルト。
「本当。どうすんの?やっぱり2km先で事故ってるみたいだから動かないよ。」
分かってる。手段はそれしか残されていないことも、メルトの提案が正しいことも。
ただ…
「その駐車場ってのは…どれくらいで到着できそうなんだ?」
「…はぁ?」
あ、今の「はぁ?」が含んでいる意図は俺でも分かった。
完全にメルトに呆れられている。
いや、この際そんな事はどうでもいい。
「駐車場までなら…列が動き出すまでの時間も含めて4分くらいかな。………全くうちの主人はこれだから…」
「や、ごめん俺もそこまで責められるとは思ってなかった。」
4分か…まぁ妥当な時間だな。
情報を少しでも多く取り入れようと、ラジオのつまみを捻る。
暫くラジオ特有のノイズが混じったあと、さっきニュースで聞いたような抑揚のないアナウンサーの声が流れだした。
「…すが、勢力の拡大はASKにも抑えきれない程のものであり、依然としてウイルス対策ソフトの配布が続けられています。…続いてのニュースは…」
「勢力の拡大…?ウイルス混入何とかの事か。ASKも手に負えない程って…」
「相当危険な状態ですね。しかもウイルスバスターの生産が間に合っていないらしいですし。……あ、やっと動きましたよ。」
アルトが身を乗り出してそう告げてくる。
見ると先ほどよりは大分走らせ易くなっていた。
ここぞとばかりにアクセルを踏み込み、目的の駐車場が見えるところまで車を動かす。
そして何とかして駐車場に滑り込むと、素早く車をとめ、バス停へ走った。
こういう時頼りになるのはメルトだ。
双子であるという設定に魅入られた俺は、データディスクも仲良く半分こにしてしまったのだ。
もちろんディスク自体を割った訳ではない。
アルトには付属の家事データのディスクをメルトにはこれまた付属の戦闘データのディスクをインストールしたのだ。
つまり、アルトは家事全般と主人奉仕に特化した機体に、メルトは戦闘全般と情報統合に特化した機体になっている。
イコールお互いインストールされていない分野はあまり得意ではないのだ。
そんな訳で頼れる機会の数少ないメルト君には、今日とっても活躍してもらおうと思っている次第だ。
「バス来たけど。凛乗らないのか?w」
小馬鹿にしたようなムカつく笑みで主人である俺を見下ろすメルト。
お前、仮にも主人に対して呼び捨てとは何だ?
とも言ってはおれず、「すまん、考え事。」とだけ言って潔くバスに乗り込んだ。