ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: android heroes!! 〜ウイルス錯乱編〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/01/04 01:32
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
すぐに降りられるように座席には座らず、運転席側の扉の前に整然と並ぶアンドロイドとその使い手。
昔の人々からしたら異様な光景かもしれないが、現代に至ってはこんなの日常の一部でしかない。
周りを見渡してみれば、目につくのは色とりどりに着飾ったアンドロイドたちと、悠長にも座席に鎮座しうたた寝を決め込んでいる使い手だろうか。
アンドロイドたちは別段嬉しそうな顔をするわけでもなく、ただ眠りこける主人の傍で万一の場合に備えている。
彼らは高性能のカメラ機能が付いた小さな水晶体で敵を感知し、すかさず防衛体制に入るよう基礎から叩き込まれているのだ。
心を持たないアンドロイドは時に残酷で、無情である。
加減を知らないアンドロイドたちは手当たり次第に暴れ散らし、取り返しの付かない事態を引き起こすのだ。
悲しいことに初期型アンドロイドの過剰防衛は年々増してきている。
今年だけで幾つあったかな。
ゆうに10件は超えていたと思うが、ここは俺の記憶力が悪いと勘違いされそうなので敢えてスルーだ。
そうそう、帰りにコードと銅線買っていかなきゃな。
何もしてないのに、メルトの機体内部で電気信号を送っていた回路がぶち切れたのだ。
それも一本や二本どころの騒ぎではない。
小指ほどの束になっていた回路が、何らかの衝撃を受けて二十本位まとめて切れたのである。
俺もメルトも普通に生活していたから、あの日急にメルトが幼児程度の言語しか話せなくなっていなければ永遠に気が付かなかったかもしれない。
原因の解明はまだしていない。
銅線の差し替えの際に分かることだからだ。
とまぁ近況を誰にともなく説明していると、ふいに服の裾が引っ張られた。
アルトが上の空で考え事をしていた俺を心配して、到着が近い事を告知してくれたのだ。本当によくできた機械だな。
俺の妹よりも出来る奴に出会ったのは久しくこれで2度目だろうか。
主人の心配より、移り変わる窓の外の景色に気を取られているメルトを見ると涙が出てくる。
「桜井町で降車の方ーーまもなく到着致します。お荷物お忘れのないように………」
車内にアナウンスが流れ、俺たちは3人分の運賃を払ってバスを降りた。
アンドロイドとは言え、一応人間と同等の生活をしている者たちだ。
当然運賃も支払わなければならない。
「有機」と言うだけあって食費もかかるし、メンテナンスもそれなりの費用がかかる。
アンドロイドを操ることは決して容易いことではないのだ。
「紅葉さん家は南中の近くにあるって言ってたな…」
去年の年賀状を手に、見慣れない街をうろつく俺達。
緊急事態という状況に気が動転した俺は、大した情報も位置特定能力もないくせに勢いのまま家を飛び出してきてしまった。
まるで親と喧嘩をし、口先だけで家を飛び出してしまった哀れ極まりない家出娘のようだ。
しかし同じ境遇とは言え、俺には二人の優秀なアンドロイドがいる。
機嫌が良いのか鼻歌を唄いながら辺りを見渡す青頭と、憂鬱そうに眉根を寄せ、こちらからの指示を待っている薄青頭。
そろそろ指示を出してあげないと後々文句を垂れられるので、取り敢えずは「紅葉さん家の位置を特定してくれないか」とだけ伝える。
返ってきたのは予想通り一言だった。
「全くうちの主人はこれだから…」
憎まれ口を叩くのだけは妙に上手いメルトだが、秘められた潜在能力は半端じゃない。
数秒とかからないうちに紅葉さんの家を特定してくれた。
素直に誉めてやると、メルトは照れくさそうにそっぽを向いてしまったが「凛の位置特定能力がないだけ」とまでは言われなかったことにひとしおの感謝をしよう。
そんなこんなで紅葉さんの家が見えてきた。
大きなお屋敷。
歴代が武家だったのもあるが、外装の凝り具合は紅葉さんの亡きお父さんが生粋の武将好きだったことにも由来するらしい。
広大な敷地には池や盆栽、縁側には真っ白な猫が悠然と佇み、哀愁を漂わせる景観には当時の武家たちにも引けを取らない美しさがあった。
なんて悠長にも紅葉邸宅を解説していると、待ち切れないとばかりにメルトが呼び鈴を鳴らした。
からんからん、と良質な銅鈴の音が鳴り響く。
流石は紅葉さんのお父さん、チャイムでさえ自分好みの音に改造済みだ。
直ぐだった。紅葉さんは凄い勢いでダッシュしてきたらしく、薄い汗を浮かばせて小さく肩で息をしていた。
「いらっしゃい、取り敢えず奥座敷に。」
どうやら紅葉邸では奥座敷で客人をもてなすようだ。
有り難く靴を脱がせて貰うと同時に、背後で仲良く身を寄せ合っていた二人にも上がるよう指示を出した。