ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 終端の騎士と異世界の王 ( No.74 )
- 日時: 2011/03/02 07:25
- 名前: るりぃ ◆.VGogta6H. (ID: opLc/10u)
- 参照: きっと嫌われてんだ我がヒーロー きっと望まれてんだほらヒーロー
第二話
少年は平凡だった。
その容姿から学力、運動能力に至るまでとにかく全てが普通だった。
だがそんな普通の彼には、たった一つ普通とは違うものがあった。
そう、それはその考え方である——。
つまらない毎日、つまらない取り巻き。
下らないクラスメイトに下らない環境。
全てが嫌だった。
馬鹿で不細工なお前達なんかと誰が好きで仲良くなんかするもんか!
僕は本当はすごく頭がいいんだ。
本当はすごく格好いいんだ。
本当は他の奴らとは違う特別な人間なんだ。
だからお前達屑なんか、みんなみんな死ねばいい。
少年はいつもそう思っていた。
そんなある日のこと。
「アイツ本当キモいよね。」
「つーか絶対自分で自分のこと格好いいとか思ってんだって!」
「有り得ないし! つうか笑えねー!!」
げらげら笑う馬鹿ども。
いまに見てろ! 本当の僕は凄いんだから。
お前達とは格が違うんだよ!
そう思いながら少年はぎろりとクラスメイトを睨み付けた。
「あのさぁ……ずっと思ってたんだけど、あんた私達のこと見下してない?」
ふと聞えた声に顔を上げればいつも一緒にいてあげている取り巻き達の姿。
……何だよその目は。この僕がわざわざ側にいさせてあげてるって言うのに!
少年が今度は彼らを睨み付ける。
「お前達みたいな地味で暗い奴らに付き合ってやってんのに何で僕が責められなきゃいけないんだよ!」
「はぁ!? お前何言ってるかわかってんのか?」
「わかってるよ! この不細工共!! お前ら如きが僕に意見するな!」
半ば叫ぶように吐き捨てた少年を見て、取り巻き扱いを受けていた少年たちが冷たい目を向ける。
「ふーん……そんな風に思ってたんだ。もういいや、そんな奴に構ってないで行こうぜ。」
一人がそう呟くと他の子達も踵を返し去って行く。
それを少年は訳がわからないといった表情で見つめた。
なんで、何でうまくいかない。
気付けば誰もいない自分の周り。
少年は強い憤りを感じ、それを他へぶつけた。
「お母さんがっ! わるいんだよ! 僕が、うまく行かないのもっ! 全部お前のせいだ!!」
大きな声で喚きながら母親を足蹴にする少年。
足元に蹲る母親は涙を流して痛みに耐える。自分の育て方が悪かったのだと悔やみながら。
それを良いことに少年は更に母親を罵り暴力をふるう。
少年が落ち着きを取り戻すまでそれは続いた。
さて、部屋に戻って小説でも読もうかな。
少年の最近の楽しみは小説を読む事だった。
その話の中では、まるで自分が思い描いている本当の自分になれるようだったからだ。
その中でも今のお気に入りは天才の少年のお話だ。
あの世界の人間はみんな美しい。
僕も本当はあの世界の住人なんだ!
神様のミスでこんなくだらない世界にいるだけで、本当はきっと皆に人気の神の使いなんだ。
痛い考えに取りつかれた少年は、倒れている母親もそのままに階段を駆け上がる。
その時だった。
「えっ」
思わず漏れた声と共に傾く体。
足元には既に階段はない。
踏み外したと気付いた時には遅かった。
まるでスローモーションのように、落ちていく時間がゆっくりに感じる。
他者から見れば一瞬の出来事なのだろうが、少年にとったらとても長い時間に感じられた。
ガツン! と頭や背中に強い衝撃が走り息が詰まる。
その瞬間、少年は誰かの声を確かに聞いた。
「その若さで死ぬなんて、可哀想に。」
耳元で聞えた声に少年ががばりと起き上がる。
するとそこはもう、見慣れた自宅ではなかった。
一面真っ白な空間。
何の音も匂いもない、ただ白いだけの場所。
そこには少年と老婆の姿しかなかった。
「……何だよ、ここ。」
怪訝な顔で声を紡いだ少年に、側にいた老婆が優しく笑う。
「ここは全ての始まりと終わりの場所じゃ。」
「お前は一体誰だよ。」
「おぉ、名乗り遅れてごめんなさいね。私はあなた達の世界で言う、神様という者じゃよ。」
それを聞いた少年は手のひらを返したように老婆にすがりつく。
「神様!? 神様って美女なんだと思ってた!」
きらきらと期待したような瞳を向ける少年に老婆が苦笑しながら口を開いた。
「本来ならばあなたはもう死ぬはずだった。だけど嘆くあなたが可哀想に思えてねぇ。あなたはもう一度、生きたいかしら?」
「生きたい! 天才少年の世界で!!」
てっきり少年が元の世界で生きたいと言うのではないかと思っていた老婆は、驚きに言葉をなくした。
しかも、よりによってあの世界へ行きたいと言うのだ。
老婆は顔色を悪くしながら少年を止めた。
「天才少年はやめた方がいい。あの世界は危険よ。何なら希望を聞いてあげる、だからあそこだけは、」
「煩いな! 神様だったら出来るだろ!? さっさとやれよ!」
心配する老婆を鬱陶しそうに睨みながら少年が怒鳴る。
渋る老婆に対し、激しく罵りながら容姿や特殊能力、愛され補正などを半ば無理矢理付加させた少年は満足気に笑う。
「じゃあ、さっさとトリップさせてよ。僕が美しく生きられる世界に。」
「、本当にどうなっても知らないわよ。もう戻すことは出来ないからね。」
「くどい! 早くやれよばばあ!」
何度も念を押す老婆を疎ましく感じ、少年が老婆を蹴り飛ばす老婆はようやく杖を構えて呪文を唱え出した。
その途端、少年の体がまばゆい光に包み込まれる。
少年は勝ち誇ったようににやりと笑みを浮かべたのだった。
「ようやく、本当の僕になれるんだな!」
少年のおぞましい程の笑い声をも包み込み、光がパッと弾けて消えた。
それを見届けた後、老婆がぽつりと呟く。
「……どうなってもしらないわよ。」
低い低い呟きは、真っ白な世界に飲み込まれて消えた。