ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 刃 ( No.4 )
日時: 2010/12/27 11:10
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)

Ⅱ.手紙 ①

——岸宮友哉——

沿岸沿いに設けられ、彼が生まれる前には廃墟と化していた、とある病院。
まだ微かに薬のような、鼻を擽る不快な臭いがする一室に足を踏み入れる。歩くたびにバリ、バリと何かを砕くような音がした。彼は左手に持っていた懐中電灯で足元を照らす。床は一面ガラスの破片で埋め尽くされていた。裸足で歩けば、足の裏がこれ以上とないほど切れて、血で染まるだろう。
青年はバリバリと音を立てながらそのまま奥へと進み、カーテンで太陽の光を遮られた部屋の不快な臭いと妙に重い空気を外に逃がそうと、カーテンと窓を開けた。
「!」
一気に入り込んでくる潮風と日光に驚き、思わず眼を瞑る。
潮風は、今までの苦しみを忘れさせてくれるかのように頬を優しく撫で、彼を照らす日光は、彼の穢れを洗い落としてくれているかのよう。
そっと目を開けば、窓から見える景色に心奪われた。
海は太陽によって、まるで宝石の如く眩しく輝いており、空は雲ひとつない快晴で、太陽は目を開けていられないほど己の存在を主張している。
この美しい景色に見とれていれば、「ふあ……」と大きな欠伸が出た。
「寝るか」
——ここに逃げ込んで来てまったく休んでないからな。
入り込んでくる潮風によって、彼の栗色の髪が靡く。
彼は窓の傍に無造作に置いてあった、ぼろぼろで僅かに血に染められているベットの上に座り、仰向けになった。同時に懐中電灯もベットの上に放り投げる。
火事があったのか、炭のように黒ずんだ天井が彼の視界を埋め尽くす。
それを暫く見つめていれば、閉めたはずのドアが開く音がした。
「え……」
驚いて勢いよく上半身を起こせば、目の前に顔も体血だらけで、整えられた漆黒の髪までも赤黒く変色させている少女が、己の姿とは反対に純白のワンピースを着て、立っていた。
彼の本能が彼に呼びかける。
——逃げろ。死ぬぞ。これはお前の××だ。飲み込まれるな。××に。お前を保て。だから早く逃げろ。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
だが彼の体は動かない。動かそうとしても何かに力強く押さえつけられている。何もないのに——彼と少女しかいないのに。
「お、にい……ちゃ、ん」
少女が彼に腕を伸ばす。それは、皮膚が焼け爛れ、骨が見えるまで抉られている、人の腕ではない何か。
それが、彼の首に回された。少女と彼の体が未着する。赤黒い血が彼の白いシャツを見る見る内に染めていった。
——痛い。
彼女に抱きしめられると、体にまるで電気が流れたかのように、鋭い痛みが体の中までを苦しめる。
「ああああああああああ!!」
その痛みと少女の醜さと恐怖に叫ぶ。

「おまえはわたしだ」

少女が呟けば、抱きしめる力が強くなって、痛みがそれに比例して強くなる。
あまりの痛みに彼は意識を手放した。

続く