ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 孤独の白鳥姫〜愛があるなら〜 ( No.3 )
日時: 2010/12/28 13:56
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)

みんなが寝入ってしまってから、私はひたすら父さんの帰りを待ち続けた。
母さんは家事で疲れてしまって、すぐさま眠り込んでしまったのだ。でも、今日くらいは寝かせてあげたかったので、私はじっと眠気を我慢した。夜遅くまで働いてくれている父さんが帰るまで、絶対に寝ちゃいけない。
と、心のかたすみで思いながら、私は祖国カレンシアについて深く考えていた。山にかこまれている国カレンシアはヨーロッパの中でも小さいが、権力としてはイギリスに勝らぬとも劣らない。

特製ワインが名産品で、あのフランスよりも上質だと信じている。そんな─裕福なカレンシアだけれど、なぜか私メーヒェルン・ミストウィーユはついてない。カレンシアの貧民街で生まれたからだ。
カレンシアの金持ちたちはヨーロッパ各国の金持ちたちよりも大きく上回っていて、財力も多大だ。しかも王一族はヨーロッパ一金持ちときている。

そんな国の貧乏娘ぐらいむなしいものはないだろう。

でも私はこの生活が気に入っていた。お金もないし、権力なんてこれっぽっちもないけど、温かい家族がいるし、それに愛してくれる人がいる生きるにはそれだけで十分だ。
もちろん貴族たちのような暮らしは夢見ているけれど。

「ただいま」

うつらうつらとしていると、私の大好きな声が耳に飛び込んできた。父さんだ!いちもくさんに玄関にかけていくと、父さんが工場の油だらけになって立っていた。片手にずたぶくろ。それに二週間分の食料費が入ってる。

「おかえりなさい。父さん。母さんは疲れて眠っているわ」

「ああ、おまえは起きててくれたのか、メーヒェン」

ええ、とうなずくと父さんは笑顔になりずたぶくろを私にわたした。私は急いでずたぶくろの中の父さんの私物と食料費を分けた。中にはすでに父さんが買ったらしいワインが入っていた。

「父さん、ワイン上等じゃない。高かったでしょ」

私がとがめるように言うと、父さんはバケツの水で顔を洗いながらぶつぶつとつぶやいた。

「お前たちにお菓子を許したんだから、それくらいいいだろう」

「でもこれお菓子とは比較にならないわ」

ワインのラベルを見ると、カレンシア産第二級と示してあった。第三級は3ペリオくらいで買えるが、第二級は7ペリオが最低だ。第一級なんてとてもじゃないが手がつけられないほど高価だ。それを貴族たちが毎晩のように飲んでいると想像すると頭がくらくらしてくる。

「とくべつだ。今日くらい許してくれたっていいだろう」

父さんは薄汚れたタオルで体を拭くと、ぶっきらぼうに言った。顔がしかめ面になっている。不機嫌にさせてしまったらしい。だがすぐに彼は微笑をとりもどした。

「実は今日は30ペリオももらえたのさ。ボーナスだ。こんなときぐらいしか、ワインは買えないからな」

「あら、そうなの」自分でも驚くほど声が興奮に満ちている。父さんは笑い声を上げた。

「メーヒェン。心配するな。一文無しになったとしても、ちゃんと策はあるんだ」

「策って?」

「内緒だ」彼は謎めいた微笑を浮かべ、寝室へ入っていった。私は父がおかしくなってしまったのではないかという反面、ボーナスがうれしくて興奮の絶頂のまま固いベッドに横になった。


これでまた素敵なものが買えるかもしれない。