ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 孤独の白鳥姫〜愛があるなら〜 ( No.4 )
日時: 2010/12/27 22:05
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)


「メーヒェン…!!おきて!ひどいことになってる」

甘い夢の世界から私の意識をひっぱりだしたフランツの声は朝から騒々しかった。

「なによ」素晴らしい朝焼けを目の前にして、しゃがれて不機嫌な私の声は自分でも驚いた。急かすフランツをよそに、私はフランツがいつも寝ているボロソファに目をこらした。

さっき飛び起きたように、うすい布団がぐちゃぐちゃになっている。几帳面なフランツのことだから、ただ事じゃないことが見てとれた。
もちろん彼の真っ青な顔を見ても。「なにじろじろ見てるんだよ!はやくおきて、居間へいかなけりゃ!夜中ヤツらが盗みにきたんだ」

「ヤツら」という言葉をきくと私は、考えるよりも先に部屋をとびだしていた。顔も洗わず、真っ先に青くなって失神寸前であろう母のいる居間へ走っていった。

「ああ……メーヒェン…!とんだことに」

予想通り、母は顔を青く染め、衝撃に手をふるわせながら立っていた。私はなにがおきたのか即座に理解した。

「こんなひどいことって…ないわ!」母が嘆く。

その足下には空っぽで平たくなった愛用の食料袋が転がっていた。私は衝撃に倒れそうになりながら、イヤな予感がして昨日父が油だらけになって持って帰ってきた30ペリオ入りのずたぶくろを乱暴に開けた。

──予感・的中だ!

30ペリオがあるはずのずたぶくろの底にはわずか4ペリオしか残っていなかった。私は絶望感にかられながら周りを見渡した。夜整頓したはずの居間が荒れている。しかも玄関の扉はすこし開いていた。きっと泥棒はあわてて金目のものをさがし、風のようなはやさで家を出たのだろう。

おそらくずたぶくろの中のお金をつかんで逃げたんだ。

私はまさに夢に描くような栄華をほこる美しい町フィール・ド・トリノの町人ではなく、反対側の貧民街の家から盗んだ泥棒が許せなかった。──なんて冷徹で無慈悲なヤツ!金だけで満足せずに、食料まで奪い取っていったのだ。犯人は分かっている。

こんなことは、「ヤツら」しかやらない!

私が怒りをたぎらせ、あたりのものをつかんで叩きつけようとした瞬間、父さんが目をこすりながら起きてきた。

「どうしたんだい」

私はライオンにもまさる勢いで父にかけより、目を真っ赤にはらして問いただした。

「父さん!一文無しになったときの策っていったいなんなの?」

憤りに爆発する私を見て、父は一瞬ひるんだ。

「は?いったい……」

父は私の肩越しから居間の様子を見た。うしろで嘆いている母の姿、荒らされている部屋、ぺちゃんこの食料袋、そしてわずか4ペリオしかはいってない愛用のずたぶくろ。

父の顔はみるみる白くなっていった。「…ワインは…あるのか?」

「ワインの問題じゃないわ!あいつらにやられたのよ!『ド・ゴーシュ』に!!」父はすがるような目つきになった。

「まさか……いくら私たちをいじめているからって、ここまで大胆なことはやらないだろう」

「なにいってるのよ、父さん!ド・ゴーシュの番長ビリアンがこのまえ、収入がないってバラリアン広場で堂々と叫んでいたのを知らないの?そしてなぜか私たちを嫌ってる。ビリアンは通りがかった私とフランツを脅したのよ!あいつらはとうとう貧民街にまで手をだしたんだわ!」

父さんはもはや言葉を失ったようだった。
そのときフランツが殺気だった私の腕をつかんだ。

「ねえ、10ペリオが隠してあった」

手には10ペリオが入った袋がにぎられていた。私は父のほうへ振り向いた。父は力なくうなずいた。

「それが……策だ…」

私たちは四人もいるというのに、たった14ペリオから出発することになってしまった。