ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/01/01 11:24
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
何十人もの視線の先にあったのは白馬にのり、高級な服をきたあまりにも美しい、すらりとした青年の姿だった。
大理石のような白い肌、完璧なブロンドに、怒りに燃えるエメラルドの瞳。唇からはうっとりとするほど美しい声が響いた。
「お前たち、二人をただちにはなせ。はなさないと即刻全員を国王の前にひったてるぞ」
私をつかんでいた薄汚れた手はつき放つように離したが、腕がひりひりとした。力ずくでおさえられたからだ。
青年が彼らに一瞥を与えると、ド・ゴーシュはつまらなそうな表情をしているビリアンを先頭にバラリアン広場を去っていった。その姿はひどくみじめで、私は思わず笑みをもらした。
私がフランツを支えながら、青年にお礼をしようと彼に向き直ると(さっきは気づかなかったが)気だての良さそうな従者が私たちに薬をわたしてくれた。
「ひどい傷ですね。顔面に小さなひっかき傷がついていますよ」
私は思わず手を顔にやり、フランツの顔を見た。ぐったりとしたフランツの顔には爪でひっかいたような傷が数個ついていて、顔をなぞった自分の手には血がついていた。
「おそらくおさえつけられたときにヤツらの爪がかすれたのだろう。それにしても、何てヤツらだ」
青年は白馬から優雅に降り立つと、同情を目に浮かべて私たちを見つめた。そして彼は私の髪に視線を走らせ、ハッと息を飲んだ。
「なんて珍しい髪色をしているのですか、あなたは。銀髪がかったブロンドだ。光にあたるとほとんど銀髪に見える」
従者も相づちをうって微笑を浮かべた。「ご両親のどちらかが銀髪でどちらかが金髪なのでしょうな。それにしても…いや、珍しい」
私はとりあえず微笑み返し、薬の礼をいった。青年はアレクシス・フォン・マルハーン・ハーバンティーナと名乗り、ハーバンティーナ伯爵ローレンスと呼ばれていると告げた。
ハーバンティーナといえば、カレンシアの南にある、絶景が数々存在する豊かで美しい町だと聞いている。大きくなったらぜひ行ってみたいと思っていた場所だ。
「あなたがたはなんという名ですか?」
ローレンス伯爵は、ベルベッドのようになめらかそうな濃いブルーの服につけられた勲章をきらめかせながら微笑んだ。それは目もくらむほどの美しさだった。
私はどぎまぎしながら答えた。「私はメーヒェルン・ミストウィーユ。弟はフランツといいます」
「どうぞ、メーヒェンと呼んでください」
伯爵は目を輝かせた。「メーヒェルン…古代タリア語で『月夜』を意味する言葉ですね」
なんて教養のある人なんだろう!──私は感動した。
自分の名前にそんな意味があるなんて想像もしなかった。
「あなたにぴったりのお名前だ。その髪は夜にこそふさわしい。ちなみにおいくつですか」
「15です。フランツは12」
「そうですか。わたしは17です。こちらの従者はギルバートといい、わたしの忠実な部下でもあります」
ギルバートは優しく微笑を浮かべた。