ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Walking -第3章- ( No.19 )
- 日時: 2011/01/29 18:36
- 名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)
第3章
-犯人と被害者-
「で、なにか成果はあったのかい?」
シニカルな笑みを浮かべて笑うウルカ。
「目撃情報なら何点か……」
屈辱だッ!なんだってこんなことに……ッ!
「ふぅん、へぇー、ほぉー」
こ・い・つ!
「まぁモノクロ君にしては頑張ったんじゃあないの?」
「不甲斐ない……です」
男の彼女の居場所を突き止めた上に犯人まで見つけたなんて言われたらこっちだってどうしようもないじゃねぇか……
「今回は運が無かったってことだよ、つぅーぎぃーはぁー、ガンバレ少年」
日ごろからかってくるのを軽くあしらっているのを根に持っているのか?
「ハイ、ガンバリマス」
もういいから帰って酒かっくらって寝たい。
何時だと思ってんの、もう朝だよ朝。昨日の夜から呼ばれ来てみれば全裸待機のウルカに捕縛されて酒を飲まされたり服を着せかえられたり、訳が分からんのを通り過ぎた所でこの仕打ち。
「分かればいいんだよ」
とりあえず服着ろ、あと顔が真っ赤だぞ見た目未成年。
「出来ればそろそろ解放してほしいんですけど」
「介抱?」
酔っ払ってても人に喧嘩売るのが得意の様ですね、この野郎
「字が違いますよ」
「知ってるよぉ」
へらへら笑って拘束されている俺の隣に座って肩に手をかけてポンポンと叩いてくる。
全く意味がわからない。それに加えこの何もないのに拘束されている状況が訳分からん。何故か体が全く動かない。
「本当に眠いんで帰りたいんですけど」
そう言うと手に持った酒瓶を無理やり口に突っ込まれ、ゴクゴクと酒が喉を通る。
「はぁ〜い。飲酒運転は事故の元って事で今日は僕ん家にお泊まりだぜっ!」
自由気まますぎるでしょうがよ
「帰らないから布団かソファー貸してください、もう寝たいです」
「そぉーか、そぉーか」
立ち上がり俺も立たされる。そのまま引きずられるようにしてファンシーなドアの前に立たされる。
「初公開!僕の寝室でぇーっすぅ!」
とーぅの掛け声で思いっきりドアを開け俺の背中を蹴る。
「ぐわっ!」
受け身が取れないから顔面から床にたたきつけられ———てない。どうやらウルカが止めてくれたみたいだ。
首だけを真正面に向けると
「…………」
言葉が出なかった。
なんというかそのアレだアレ。このベッドは無いな。うん。どこの貴族だよ、つーか貴族でももうちょっと慎ましいわ。
とりあえず多分だけどシルクのレースに端にヒラヒラしたのが付いてるシーツやらなんやらに屋根みたいなのも付いてるし何より何故かベッドの上は人形だらけ。
動物やらなんやらに何かは人型をしたのも。
「ひっ」
ファンシーな人形たちの中に一つだけ日本人形が顔を覗かしていた。
明らかにこっちを見てる気がするぞっ!怖っ!
「ドゥフフフ」
明らかに可笑しい笑い声をしながらベッドまで吹き飛ばされる。その際横になったせいで日本人形が目の前にくる形になってしまい悲鳴を上げそう。
「イッツパーティーターイム!とぉーぅ!」
有名怪盗の三代目よろしく飛んでベットに向かって来た。
「モーノクロちゃぁーん!」
「性別が逆でしょうが!」
思わず突っ込んでしまうがすでに時遅しこのまではまずい、色々まずい。
全力で体を動かそうとするが全然動かない、が首が動く。首を上手く使って体を反転させる。
「あっ」
「あっ」
二人の声が重なった、この時こそ本当にすでに時遅し。ウルカの顔面が迷いなく日本人形と衝突。そのせいでウルカは多分気絶、日本人形は大破。
そう思うと日本人形が可愛そうな気もする。俺の為にすまなかった、許してくれ。
伸びてるウルカを横目に体が動くか確かめてみるとあっさり動いたが酒を飲んだ以上バイクの運転はマズイ。
おとなしくリビングのソファーを借りて寝るとするか……。
酒臭いリビングの窓を開けて夜風にじゃなくて朝の陽ざしを浴びてからソファーに倒れこむようにして寝る。
何よりもだがウルカは酒癖が悪いみたいだ、もう二度と一緒に飲みたくない。
- Walking -第3章- ( No.20 )
- 日時: 2011/01/30 20:45
- 名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)
◆
目が覚めると見たことない天井だった。
気のせいか体が動かない。もしかして
「おはようモノクロ君」
嘲笑を含んだ声音と笑み。
「おはよう……ございます」
一体何なんだ?
「どうにも昨日の記憶が無いんだ。君僕に何かした?」
いいえ、したのは貴女からですよ。
「いえ、酒を飲んで倒れてたじゃないですか」
出来るだけ厄介事を回避する方向で会話を進める
「そうか。やっぱりお酒は控えよう」
「なにか昔にやらかしたんですか?」
ちょっと深刻な面持ちで
「お酒に酔った勢いで手当たり次第に男女関係なく目に入った二人をカップリングして無理やり色々させたりとかしてたらしい」
「もう絶対お酒飲まないでください」
酒に弱すぎるだろ……。
「いや、ついついね」
ついついで滅茶苦茶にされたらたまったもんじゃない
「そろそろ動きたいんで解放してください」
「ああ、ごめんごめん」
そう言うと体に力が入るようになった。
「まあ何はともあれ、今日行きますか?」
間を開けずに
「盗撮かい?」
何故ナチュラルにその言葉が出るんだよ
「人を犯罪者に仕立て上げるな」
つい油断するとこれだ。気が抜けないよ本当。
「今更人様の裸見ても興奮しないよねー。つーか何人も殺してるのにその程度で捕まったんじゃ面白くないしね」
酔って無くても滅茶苦茶じゃねぇか。
「って、今人様の裸じゃ興奮しないってそれって」
自分には興奮するってことだよな、ナルシストすぎる。
「安心して」
「何を?」
嫌な予感しかしない
「君に関しては想像するだけで興奮するから」
「いっぺん死んでしまえ」
心からそう思う。
◆
「ここです」
借りてきた猫のようにおとなしいウルカ。
「じゃあさっさと終わらせてしまおう」
「もちのロンです」
やる気はあるみたいだ、そうでなきゃ困る。
何のために仕事が終わったら旅行しようと誘ったのかわからなくなるから。
「にしても普通のアパート———って訳にはいかないのな」
どこをどう見ても完全に廃屋。ちょっとしたサバケーにはもってこいの広さだろう。
「急ごうモノクロ君」
無駄に腕を引っ張るウルカ、なんか俺の方がやる気無くなってきた。
この猫かぶりの年増め。
「それもそうだな」
特に警戒もせずに屋内に入ろうとした。
「あー。モノクロ君ストップストップ」
急に足を止めたせいで前のめりにウルカと倒れそうに
「マズイなぁ」
そうウルカが呟くと体が空中で静止した。
「またですか」
溜息混じりに言う
「見てみたら分かるけどこの廊下モノフィラメントが張り巡らせてある」
「モノフィラメント?」
聞きなれない単語に首をかしげる。
「簡単にいえばミクロの糸。いわゆるピアノ線って解釈でいいよ」
「なるほど」
それは大変だ、うかつに通ると惨劇を招きかねない
「どうするつもりですか?」
こっちを見てニタリと笑う。
「こうするんだよ」
ウルカがちょいっと手を廊下に向ける。するとあろうことか糸を張り巡らせていた壁が一瞬で風化して消し去った。
「いつもながら壮大な能力ですよね」
「ふふん」
自慢げに胸を張る。
服の上からだと控えめな胸を張っている。
「まあ、なんでもいいですけどね」
本当に恐ろしい能力だがこちらに敵意が向かなければ頼もしい怪物だ。
「じゃあ行くとしようか」
上機嫌に歩くウルカ。その後ろを突いていく。そして、扉の前に立つ。
「全く手間取らせてくれちゃって」
ドアノブを軽くまわして扉を開ける。
ウルカの向こうの部屋の様子はいたって普通、というよりはファンシーな部屋だった。
「いらっしゃい」
部屋の奥から女性の声が聞こえた。
「どーもどーも」
ウルカは当然のように土足でズカズカと上がっていく。
床を見ると靴を脱ぐ訳ではなさそうなので後ろをそのままついていく。
「結構前からつけてたよね」
ようやく部屋の中の声の主の顔が目に入った。
「男の彼女?」
男から預かっていた写真と全く一寸の狂いもなく同じ顔をしていた。
「ん?ああ、そうそう、そうなんだよ」
あははと可愛らしい表情で笑う。とりあえず一つ目の依頼は完了したわけで
「萌子ちょっとその人見てて」
「どーしてだい?」
「依頼人呼ぶから」
「なーるほど、了解だよ」
部屋を出て扉の前で携帯を開く。
何べんかコールしてからつながった。
『もしもし』
声のトーンが低いというか浮かない声だ。
「もしもし、一色ですが」
『どうしました?』
どうしたかと聞いて言わりには浮かれた声をに聞こえる。
一息ついてから
「貴方の彼女見つけましたよ」
そう言うと間を開けずに
『本当ですかっ!?』
大声で叫ぶものだから携帯を耳から放してしまう
「ええ」
『どこに居るんですか?』
冷静さを取り戻したつもりだが声は正直でうわずっている。
「場所を言うんで良ければ依頼料を持ってきてもらえれば」
言い終わる前に向こうから声が聞こえ
『わかりました!今すぐ行くんで場所の方を』
せっかちと言うか……。いや探し人が見つかったのだから急ぐのも無理ないか。
「えっとですね———」
目的地を言うと失礼します、と上擦った声で言われてすぐにきれた。
「ったく……」
携帯を閉じてポケットに入れて部屋に戻る
部屋の中ではウルカと女が談笑していた。
「何してるんだ」
少しきつめの声で聞くと
「世間話だよ」
軽く受け流されて
「そうだよ」
ケラケラと女は笑い紅茶を啜る。
なんだかなぁ……。
「とりあえず、依頼人が来ると思うので俺は外で待ってるよ」
部屋をでて外の空気を吸う。ミクロの糸、モノフィラメントに気を付けて屋外に。
「はぁ……」
溜息を付く。なんとか一息付けそうな結果が出そうだ、殺した犯人はすぐにでも見つかるだろう、殺された本人がこうして笑っていたのだから。
ポケットが震えた。どうやら携帯に電話がかかってきたみたいで
- Walking -第3章- ( No.21 )
- 日時: 2011/02/01 21:44
- 名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)
◆
結局依頼人が付いたのは十分後だった。
息を切らせて単車から降りて来たのを見てそうとう焦ってきたのがうかがえる。
「お久し……ぶりで……す」
息を切らせているのでとぎれとぎれで喋っている。
「それじゃあ、案内します」
そう言ってそそくさと俺は背を向けて二人のいる部屋まで案内した。
途中で足元とかに気を付ける様に言ったのだが、コンクリートからはみ出した鉄骨で足をすりむき血がズボンを濡らしていた
「この程度怪我に入らないですから」
と笑って歩くをのやめなかった
かくして部屋の前に付いて
「ここです」
そう言うと男はジャケットの内ポケットから封筒を出して手渡してきた。
「これは依頼料です」
封筒の中からは金がちらついていた
「しかし、犯人の方が」
そのことを言われるの予想していのか言い終わる前に
「彼女に直接聞きますから」
そう答えて男は扉を開けた。
どうやら開けてすぐのところから中が見えて女の姿が見えたのだろう
「由梨絵!」
男が女の名前らしきものを叫んで中に走って行った。
「……すまん」
ドアの中を見ずにそう行った。
無音の中から歪な笑い声が二つとみずみずしい音が部屋の中から聞こえた。
ホースの口を親指で抑えたときに出る様な音、床に肉が落ち水の中に落ちて水が飛び散るような音、小さく溜息をついてから中を覗く。
中には細切れになった男の死体が床に撒き散らされていた。
さっきの電話が無ければこうなっていたのは俺なんだろう。
部屋の中から悪魔の嗤い声が二つ。甲高い声と低い声。
「さいっこうに笑えるよ」
黄色い声で嗤うのは女。
「本当にご苦労様だよ」
黒い声で嗤うのはウルカ。
こいつらは悪魔だ、片方はよく知っているがもう片方はよく知らない。
だが分かる。二人とも同じ匂いがする。
「楽しいなぁ」
「うんうん」
二人仲良く嗤っている。正直一刻も早く帰りたい。血なまぐさすぎて頭にくる。
「ところでさ、貴女誰?」
ひとしきり嗤った後ウルカの顔を見てそう言った。
ウルカは嗤う。ニタリニタリと嫌らしい笑みを浮かべる。
「僕は【ウォーキング】だよ。そこの肉団子に頼まれて君を見つける仕事をしてたのさ」
「ばっ———!」
ウルカは何一つためらわずにいってのけた。
「【ウォーキング】!?」
女は驚いてすぐに距離を開けた。
「本当にその依頼だけか?」
疑り深く聞いてくるその声ウルカはまだ笑みを崩さない。
「さぁて……ねぇ?」
からかう様に女を見る。その眼は本当に笑っていた。
「くっ!」
苦虫をかみつぶしたような顔をする女。
「そんなことよりさ、名前教えてよ。ユリエじゃないんでしょ?」
ウルカは笑みを崩す気は無いらしく何時までもニタニタ笑って聞く
「【フィラメント】」
フィラメントと名乗る女。それを聞いて一番驚いたのは俺だった。
「嘘だろ?」
冷静になれば気づくはずだったのに!【フィラメント】と言えばそれなりに有名な名前だ。しかし誰一人として【フィラメント】の顔を知らなかった。
昔あいつと見えない何かに体を切られて気がつけばサイコロステーキになるぜと冗談めかしに言っていたじゃないか
見えない何かとはナノフィラメントだったのだ!フィラメントで気がつくはずだったのだ!
「【ウォーキング】、動けば貴女の周りに張り巡らされた糸にその身を引き裂かれることになるから」
二人とも一切動かない。張りつめた緊張の糸が二人の中にめぐっているはずだ。
ウルカが殺されると次は俺か……。それはマズイな……。横目でウルカを見ると眼で合図してきた。
『後ろに回り込んで首を掻き切ってやれ』と。やるしかないのか。ゆっくりと足音を立てず気配を殺し、【フィラメント】に近づく。
その間ウルカが他愛もない話で気を引きつけてくれた。
すでに【フィラメント】真後ろまで回りこんでいる。口を押さえて首を切り落とすことも出る。
悪いが俺の為に死んでくれ。
その間約二秒。引き抜いたナイフで【フィラメント】の首を刈り取った。
「スマンな」
俺は刈り取った首に謝った。
普通に生活して男といちゃこらしてたらそれじゃあ誰が【フィラメン
ト】と気がつくだろうか。
「モノクロ君。『まだ』だよ」
ウルカは冷静に笑いつつそう言った。
「———ぐうぇ!」
———嘘だっ!そんなことがっ!
首を切り落としたはずの【フィラメント】が動いて首を絞めてきた!
そんなことあるはずが!
————!
もしかしてこれはウルカの仕業じゃ!
視界の端のウルカに目をやると『嗤っていた』。ゲラゲラと『笑っていた』。『笑っていた』!
間違いない!首のない体を動かせるのはこいつしか居ない!
きっとわざわざ俺を【フィラメント】の後ろにこさせて、こうやって殺そうと!
様々なことが頭をよぎるのは数秒のことだった。現実の時間の流れの中では首が徐々に絞めつけられていく。
「うげぇ……ぐぅぇ……」
声にならない声が口から洩れる。
んなとこで俺……。
ヤバ意識……。
暗いぞ……。
誰か……。
助……。
……。
…。
。