ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Walking -最終章- ( No.22 )
- 日時: 2011/02/02 20:50
- 名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)
最終章
-死人に首無し、生き人に首有り-
混濁した意識の中、声が聞こえた。
「おー…モ……ロ…ーん」
その声がだんだんまともに聞こえるようになる。
「…き…ます…?」
次に目が見えてきた。どうやらまだ死んではいないみたいだ。ならどうして生きているのか?
きっとウルカの野郎に弄ばれるんだろうな。
「ウルカ…テメェは……絶対殺……す」
勝てないと知っていても最低限の挑発をして見せていると全身の感覚が戻って来た。
「おー怖い怖い」
耳も正常に聞こえるようになってきた。
「よくも……【フィラメント】を使って俺を殺そうとしやがったな」
「まあ、間違ってないけどね」
屈託のない笑顔で笑っている。
「よかった。生きてた」
床に倒れているので声のした方を向くと
やっぱりな
首を切り落としたはずの【フィラメント】が居た。
「何時までこの死体動かしてるつもりだ。やるならさっさと俺にしやがれ」
気色悪いし気分が悪い。俺が殺した奴が生きていると思うだけで腹が立つ。
「え?」
素っ頓狂な声を出したのはウルカだった。
「どうした?」
「えっ?え……」
少し考え込むウルカ、指を顎にあてがい首をひねる。
そして、ポンと手をたたいた。
「ああ。うん。そうだね。うん」
ウルカは【フィラメント】の方を向くとウィンクをした。
「モノクロ君」
改まった雰囲気でこっちの方を向いて偉く演技ぶった風に喋る。
「なんだ?」
あくまでも挑戦的に答えた。
「ここで一つ僕と契約をしよう」
「どういうつもりだ、【ウォーキング】」
あえて【ウォーキング】と呼ぶと少し眉をひそめて俺を見る。
「なに、ここで一つ僕の『奴隷』になるというなら生かしてやろう」
「はん!お断りだ!お前の奴隷になる位ならそこの死体を恋人に狂人ごっこしてる方がマシだぜ」
そう言って【フィラメント】を指差す。
それを聞いた【フィラメント】が「ほんとうに?」と聞いてきたので
「この世界の神に誓ってな」
嘯いてやると
「残念だったねウルカちゃん」
【フィラメント】が黄色い声であははと笑う。
「ちぇっ」
【ウォーキング】が口をとがらせてぶつくさ文句を言い出した。
一体どうなってやがる?
疑問そうな俺の顔を見て【フィラメント】が俺の体を起して言う。
「ちょっと見てて」
壁に背を持たれて俺は【フィラメント】を見る。
「さてさて、タネも仕掛けもございませーん。せいや!」
そう言うと自分の頭を両手で持って上に上げた。首が伸びて引き千切れそうになってやめる気配がない。
やがてプツンと糸が切れる様な音がした。その音はどんどん増えて終いには一つ大きな音を立てて音が消えた。
「嘘だろ?」
首がとれた。
【フィラメント】の首が、だ。
「もー。ヘレスネタばれ早すぎだよぉ」
【ウォーキング】はそう言ってケラケラと笑う。
訳がわからない。【フィラメント】はヘレスと呼ばれて首を【ウォーキング】に投げた。
「まあ簡単な話が僕は何もやっちゃいないんだよね」
「は?」
今度は【ウォーキング】が【フィラメント】に首を投げる。その首を受け取った【フィラメント】は首を首の上に置く。
そしたら糸と針を取り出して自分で首を縫い始めやがった。縫い終わると切り傷は消え完全に肉体と同化した。
「なんだよこいつ……」
俺の聞いていた【フィラメント】と同じ糸使いだがこんな首が取れたりするなんて聞いてない。
「へレスは簡単に言えばデュラハンなんだよ」
「何言ってんだ、そんな幻想の生物な訳ないだろう」
駄目だ脳の処理能力が追いつかない。一体全体どういう訳なんだ?
「全部分かりやすく言うと僕とヘレスが気が合っちゃって話こんでたら依頼人の男がうざいから殺そうってなって、ついでにモノクロ君をいじめてみようって流れに、あっちなみに僕の提案ね」
俺の中の何かが切れた。つーか【フィラメント】について何にも触れてねぇ。
「殺しかけてすまんかったの一言も無しかゴルァ!」
鬼神のごとく立ち上がり自分でも想像だにしない表情でウルカを睨む。
「えっ?ああ、そ、そうだね。ごめんね、騙してごめんね、だから睨まないで、いや本当に怖いから、物理的脅威ならなんとでもなるけどそういうのはやめて?ね?」
この、この、このっ!もう駄目だ、我慢ならん!
「じゃかましィわァッ!この露出狂のド変態がぁぁぁ!」
叫んだ、本当に久しく本気でキレた。
「うわぁぁぁぁ!」
ウルカは叫んで窓から飛び降りて逃げだした。
「待たんかぁぁぁぁい!」
窓から大声で叫ぶとウルカは脱兎のごとく町の方角へ走り逃げた。
「あのぉ……」
部屋の中から取り残された【フィラメント】が声を出した
「なんだ?」
「えっとごめんね」
女の子らしい笑顔で笑うその笑顔で【フィラメント】に怒る気が失せた。
「あんたは別にもういいさ、ただ如何せんその顔は好きになれないがな」
あの男の女の顔と思うと調子がくるう。
「そっか」
えへへっとまた可愛らしく笑う。
「とりあえず俺は行くけど、モノフィラメント張ってないよね?」
つい怖くなって安全確認を取った。
「うん、大丈夫。あと良ければ」
なにか含みのある言い方で「?」と頭に浮かべてしまった。
「また会ってもらえますか?」
予想だにしないことに対し反射的に
「その顔でなければいいですよ、裏通りのマスターって人に取り次いでもらえばすぐにでもまた会えますよ」
営業スマイルでそう言って駆け抜けるように部屋を出た。
あの変態を捕まえてお仕置きするために
- Walking -最終章- ( No.23 )
- 日時: 2011/02/03 22:10
- 名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)
◆
「申し訳ありませんでした。以後このようなことは致しません。なので———旅行に連れてってください……。良ければ混浴でいちゃつかせてください」
頭を地面にこすりつけてぐりぐりするウルカを見下げる。身支度を済ませて温泉旅行の予約も取っていた。三人分。
「舐めてんの?誰のせいで死にかけたと思ってるの?」
「でも、実際に首絞めたのはへレスで」
言い訳を始めたので
「あぁん?」
そう言うとしゅんとして小さな声でぶつぶつと何か言っている。そろそろ許してやってもいいだろうとは思うが
「そんなに意地悪するならこっちだって考えがある」
「ん?」
急にウルカが顔を上げると小悪魔にも似た笑顔をしていて、あ、体うごかねぇや。ウルカが両手を合わせて
「いただきます。」
言い方がおかしいしタイミングがおかしい。
「どういう意味でだよ」
苦虫をかみつぶしたような顔で聞くと
「皆まで言わせないでよね」
女の子らしく可愛く言ってるが変態の所業だぞ?
「ええい分かったから放せ、反則すぎる能力を易々使うんじゃない」
本当に世界を変える様な能力を好きなだけ制限なしに制約なしに使うな。
「連れてってくれるの?」
急に動きを止めて顔を上げて聞いてくるのでおとなしく伝えてやる。
「ああ、三人分取ってある」
それを聞いたとたん体に自由が戻った。数秒後
「キタァ—————」
顔が顔文字になる位叫びだした、しちめんどくせぇ……。
すると呼び鈴が鳴った。
「誰だいこんないい日に、野暮だぞ?殺しちゃうぞ?」
物騒だぞ?
「もうここ開けるからさっさと出ていきましょうよ」
「そうだね!」
そう言うとどっからか取りだしたは旅行鞄。用意のいい奴め。また呼び鈴が鳴る。
「はいはーい」
二人揃って玄関まで来て靴を軽く履いて玄関を開けると見知った顔が
後ろからウルカが覗いてくる。そして怪訝な顔をして
「だれ?」
そう聞くので俺は笑って言ってやった
「ヘレスだよ」
「どうも」
可愛らしく笑う。今の顔は前の顔じゃなくて日本人離れしたロングのブロンドヘアーに青い瞳。垂れ目に左目に涙ボクロ。
「顔変えたの?」
まるで髪形変えたの?みたいに聞くけど壮絶な発言だよね。
「うん。色々あってね」
ちらりとこっち見る。確かにね金髪もいいよねってこの間言ったけどさぁ……。
「で、何の用?」
ウルカが聞くと
「モノクロと一緒に温泉だけど?」
音が出そうなくらい絶望的な表情を浮かべる、そして声にならない声で唸り俺の体をゆする
「ヘレス、悪いけどウルカも一緒でいい?」
「ウルカちゃんも一緒に!?わーい!」
見た目は大人だが子供のようにはしゃぐ。
ウルカはぶつくさぶつくさ文句を垂れているが無視だ。
「それじゃあ行きますか」
鞄を持って外に出た。後ろからウルカがついてくる、外のヘレスはニコニコと笑顔を浮かべている。
こんな二人だが二人が二人共に化けものだ。
この世界じゃあ有名な二人。
当初の目的から色々変わったが今の最大の目的は
———こいつら二人を飼いならすこと。
さて、俺はどこまでできるのか、お手並み意見だな。
『Walking』 END