ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Walking-第1章- ( No.4 )
日時: 2010/12/29 23:55
名前: 深山羊 (ID: TNiD2WXY)

 扉の横には人が椅子に座ってこちらを見ている。
「モノクロか。珍しいなこんな時間に」
 椅子に座っているのは知り合いの男だった。つーか赤毛の元父ちゃんじゃん、偶然だな。ここの入口には常に誰かがいなければならない外の人間が入ってきたらまずいことになるからというのもあるが何より名のある人が入ってくる場合の接客である。
「ちょっと朝から一杯ひっかけようと思ってね、つまみと弾買いに来た」
 クイッと酒を飲む仕草をしてみせると男は
「良い御身分だことで、番じゃなけりゃ付き合いたかったんだがな」
「まあせいぜいがんばってくれよ」
 男は扉のカギを開けてくれた。
「おっと、出来ればなんか差し入れ買ってきてくれよ。昨日の晩からずっとなんで腹が減って仕方ねぇんだ」
 そう言っている傍から腹が飯をくれと悲鳴を上げている。どうやら本当に限界みたいだ。
「了解だ。今度酒でもおごれよ」
「酒ばっかりだなお前」
「たばこはしないけどな」
「女もいないけどな」
「お前もな」
 二人で苦笑しながら一旦別れて中に入る。薄暗い廊下、唯一の光は弱々しい蛍光灯、後ろから鍵のかかる音が響く。足取りを早くして廊下を抜けるといつもながら不気味さを孕んだ空気が体を包み込む。闇市場という言葉そのものといっていい位には酷い有様、ここでは日用品から軍御用達の銃器までなんでもござれ。御用達の店でマガジンを多めに購入して酒の肴が無いかとうろつき回る。久しぶりに立つ寄ろうと思い顔を出す。
「こんちわ」
 店にたどり着く、ここに来るのは久しぶりだ。
「おお、モノクロか。やっとあたしを襲う気になったのかい?」
 ケラケラと笑いながら奥から出てくる。
「朝から盛ってんじゃねーよ」
 ほぼ全裸の女がナイフを片手に血の臭いをさせながら近づいてくる。
「ここじゃ朝だろうと夜だろうとヤりたいときにヤるもんなの」
 店の奥には入った時には分からなかったがバラバラになった肌色の何かが無造作に放置されていた。
「残念だがお前には欲情しないな、とりあえずその全身の傷を消す作業から始めろよ」
「やぁーだ、自分の体で試し切りしたいじゃない」
 手に持っていたナイフでまた自分の体に切り傷を付けていく。しかし表情は恍惚で艶かしい。
「このドМめ」
「言葉攻めも大歓迎よ」
「こいつには弱点がねーのか?」
「ここにあるけど?」
 そう言って自分の股に指をあてがう。
「黙れ、淫乱ドМ女」
「もっと言って」
 ハァハァと息を荒げながら近づいてくる。明らかに逆だろ、常識。
「それはそうと、そこのバラバラの奴とヤってたの?ヤったの?」
 女は頬を釣り上げて背筋がひんやりする様な恐怖を感じさせる笑みを浮かべた。
「ヤりながらヤっちゃった、さいっこうによかったわ」
「マジで変態すぎんだろ。ドМだけじゃなくてドSもかよ、立ちが悪い」
「やん!そんなこと言わないでっ!」
「もういいかこのノリ、疲れる」
「つまんないの、じゃあなんの用?」
 ふざけ倒していた雰囲気は消え真面目な顔をして聞いてくる。
「外で食える飯と切れ味のいいナイフ。ちょうだいな」
「はいはい了解しましたよ〜」
 悪そびれた風もなく適当に店の中にある棚から食事を出してナイフは別のところに掛けてある。その中から机の上に置かれる。
「幾ら?」
「一回抱いてくれたらタダでいいよ?」
「眉間に穴が開くのとお金もらうのどっちが好き?」
「意地悪、別にタダでいいよ、そこの男お金持ってたから、今お金より別のモノが欲しいな」
「じゃあタダで貰ってく。ありがとな」
 早々に店から立ち去る。後ろから声が聞こえるが気にしない。あんな変態に付き合うほど暇じゃない。
 結局その後見つけたするめいかと水を買って闇市を後にした。来た道を戻り入口まで戻って中から鍵をあける。
「早かったな」
「ほれ」
 手に持っていた食料と水を手渡す。
「助かったよ、今度酒をおごっちゃる」
「明後日にでもお願いしようかな」
「任せときな」
 幾らか会話を済ませると帰路について手荷物を確認しながら自宅へと歩みを進めた。


  ◆


 昼の三時。
 ほろ酔い程度に飲んでいた酒だが気がついたらビンは殻になっており、さっき買ったはずのするめいかも残り僅か。
「うーむ、そろそろやめとくか」
 殻のコップを机に置き食べかけのするめいかを放置、何も考えずベッドに倒れこむ。
「夜のショーまでちょっとおやすみしよう、そうしよう」
 携帯のアラームをセットしてそのまま眠りついた。
 次に目を覚ましたのは夜の10時前、起きて一番に熱いシャワーを浴びて目を覚まさせる。バスタオルを腰に巻き、薄く生えた髭を剃る。別に剃る必要はないが目を覚ます行動の一つ、歯を磨いて髪を乾かす。
 気がついたときには10時40分を回ろうとしていた。すばやく着替えて銃を懐に忍ばせマガジンを胸ポケットと腰に隠すように入れるスペースがあるので見えないように入れる。朝に手に入れたナイフも腰に入れ、こちらも見えないように装備する。
 全体的には少々重みがあるかと思ったが思いのほか軽く飛んでも音はしない。そろそろ行こうか。
 もしも【ウォーキング】のショーがあるなら、それに越したことはないが彼に出会う危険性も比例してある訳だ。ハイリスクハイリターン。ハイリスクだがリターンはそれ以上の見込みがある。
 彼のショーの噂はよく耳にする。彼のショーでは本当に人が死に、まるで劇などではなく本当の出来事の様に皆が役を演じきる、それもそのはず彼がMr.【ウォーキング】と呼ばれる理由の一つ。
 【歩く死体】(リビングデッド)を操る力があるからだ。正しくは死体を歩かせて生きてるかのように動かす、だからこそ死を演じさせることができショーのクオリティーが上がる。
 ぜひとも一度でいいから見てみたい。本当の意味での茶番もない本当の本物の劇という名の物語を。そうこうしている間に時計の針は11時を回っていた。早くイーストホールの第二劇場へ向かわなくてはならない。
 アパートの自室に鍵を掛け徒歩で目的地に向かう。どんなに遅くても11時50分にはイーストホールに付く計算の元動いている。
「……寒いな」
 外は思いのほか冷気を帯びており身震いするほど寒さが体に凍みる、しかし少し酔った頭には丁度いい気つけだ。歩くこと三十分前後、思いのほか早く到着してしまい時間にはまだまだ余裕がみられる。
 まだ三十分前ほどだというのに人や人外その他諸々の裏の有名人が大集結。ここで喧嘩でも起こったらとんでもないことになりそうな面子だらけだ。
 一足先にと第二劇場に足を運ぶ、ほとんど廃墟に近い町はずれのイーストホールだがとある曰く付きで全く取り壊されていないのがこの第二劇場。その曰くのせいで廃墟となったのは言うまでもないことなのだが。
 その曰くというのが劇中に本当に死人が出てその死人が出てから怪我や事故が多発するようになったとか、取り壊し作業でも同じように事故けが人が絶えなかった、あとはそのまま放置されて荒れ放題というわけだ。