ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Walking-第1章- ( No.6 )
- 日時: 2010/12/31 17:18
- 名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)
劇場は二階の特別席と一階の一般席にわかれている。二階のいい席で見ようとすると必然と有力者と出会うことになるから俺みたいな下の人間は一階の後ろの方から眺める程度、それでも心を振るわせられるような本当の劇を見れるなら構わない。
中を除くと意外や意外、前のほうの席にぽつねんと一人帽子をかぶった男らしき人物のみがそこにいた、服装は薄暗くてはっきりわからないからわかる。多分黒い服だ、あの座り具合に対して頭が出てる分を差し引くと多分だが黒いスーツだな、それに合わせてズボンも黒だろう。
近づいて気がついたのかその帽子の男が振り向く、俺は別段帽子をかぶっているだけで変な奴ではないと思う、見た目だけでいいならとんでもない奴は嫌ってほど見てきた。
「やぁ、初めまして」
男と思っていたがその声はあまりにも幼い、少年と言った方がただしいだろう。帽子から除く顔童で薄暗い場所でも見てとれるほど白く美しい肌。髪は薄い青色をしている。目元は薄暗いせいかしっかりと見て取れない。
「初めまして、君も見に来たのかい?」
出来るだけ警戒されないように優しい口調で受け答えする。
「うーん……。そんなところかな」
何故か少し言葉を詰まらせたが曖昧ながらも肯定と取れる発言をする
「じゃあ、隣良いかな?」
かなり前の方でいい席だ、もし座れるならそれに越したことはない。
「いいけどもっといい席あるけどそっちに行かない?」
少年は立ち上がり出入り口へと足を進める。
「いい席?ここも十分いいところだと思うが」
と引き止めようとしてみるが「まあ、そうだけどここより楽しめるよ」と軽く返される。
「とりあえず、付いていくよ」
少年はニヤリと笑って。何かつぶやいた
「特別席にようこそ」
そう言ったように俺には聞こえた。
少年の背をおいながら歩いていると何人かがぞろぞろと劇場の出入り口に向かう。すれ違っただけだが断言できないがあいつは【迦楼羅】(カルラ)じゃないのか?あんな奴も来てんのかよ。へたすりゃ【八部衆】の奴らも来てんのか?こいつはデケェことになってんな。
軽く恐怖を感じながらも歩みを進め、階段を上る。上がってから右に少し行ったところの扉を開けて中に少年が入る。あそこってまさか
「あそこって特別席じゃ、誰もいないのか?」
不安に恐怖がブレンドされるがそれ以上に好奇心が心を揺らす。
恐る恐る扉の中に入る、少年以外誰もいない、どうやら本当に空席だったようだ。それを知ると体は隠れる様に扉の中に入り内側からカギを掛けた。
「そろそろ始まるんじゃないかな」
少年の声に驚き身を震わせた。それを見られたようで少年はクスクスと笑っている。
「そうか、じゃあ遠慮なく座らせてもらうとしようか」
豪華な椅子に腰掛けて舞台の方へと目を向けた。まだ舞台の幕は上がっていない。
何一つ合図なしに幕は開いた。舞台の中心には赤毛の少女が立っていた。
「パパ!ママ!」
両親を探す声がホールに響く。少女の見ていない所から男と女が現われ。
「ここだよ」
そう言った男の声が鮮明に聞こえる。どうやら酒を奢りに来てくれた訳ではなさそうだ。少女は振り向く。
「パパ?ママ?」
優しそうな笑みがここからでもわかる。やっとこの家族はここでもう一度出会えたのだろう。少女を抱きしめる男の顔は本当にいい顔をしていた。
「ママ?」
少女がそういうと女はニッコリと笑って男と少女を切り殺した。鋭利にはナイフは切り殺すという表現に似合わないほど綺麗に首を落とす。
「誰がママよ、汚らわしい」
ナイフに付いた血を男のポケットから出したハンカチで拭う。投げ捨てられたハンカチは客席に飛びそれを誰かが手にとって手元に置く。
「そこのお姉ちゃん」
舞台袖から別の役者が現われた。見知らぬ男がナイフ狂の女に近づいていく。
「これあんたが殺ったのかい?いい切れ味だな」
あひゃひゃひゃと奇怪な笑い声を上げて笑う男、その声に雑音が混ざるのは数秒たりとも必要としない。
「ごふぇ。ひゅーひゅー?」
喉の切り口から奇怪な音が漏れる。始まってすぐだが何をしたいのか解らない舞台だ、だがわかるのはすでに知り合いが三人は死んだということだ。
【ウォーキング】は【歩く死体】しか舞台に上げない。これが言わんとしていることの意味だ。ありたいていに言うなら舞台の彼女は死んでいるということだ。
それらの二時間は言葉にできないほどに素晴らしく良い劇で、喜怒哀楽に溢れた舞台だった。
途中に【迦楼羅】が舞台に立ってあっけなく死んでいく様には笑いが込み上げてつい声を出して笑ってしまうこともあり、さらに残りの【八部衆】全員舞台で踊り狂って死んでいったのはあり得ないとしか言いようのない光景で、【ウォーキング】はそれほどの知力武力に長けた者たちでもあしらえるほどの力の持ち主なのだと理解する。
気がつけば劇は幕を閉じ観客は誰一人としてその場にとどまっていなかった。
少年が気になり当たりを探したが見当たらなかったので放置。面白そうだから下の階の舞台を覗こう。階段を下り観客席を通り過ぎ舞台の前まで来る。
ごくりと唾を飲む。この舞台で幾多の人間が血を流し、屍となり下がったのだろうかと思うと気持ちが顔に出る。頬が綻び唇の端がつり上がっていく。なんて
「愉快なんだろうか」
声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。
次に舞台の幕が開く。その舞台の真中、スポットライトに照らされているのは
「さっきの少年」
「またあったね、お兄さん」
優しげな笑みでこっちを見据える。さっきとは違い顔がしっかりと視認できた。やはり童顔で白い肌ここまで来ると病的とも言えるだろう。
「そんなところでなにやってんだい?」
率直な疑問。何故少年はここに一人残り舞台の幕の内側に居たのだろうか。
「後処理かな、別に血だらけのままでもいいんだけどさ」
嫌な予感はしているが聞くしかないだろう。まだ死にたくねーなぁ……。
「なんで君が?」
嘲笑するかのように小さく笑うと透き通るような声が観客席に響渡り俺の耳へ。そして声を荒げず、それでいてしっかりと聞こえるそんな声で少年は言う。
「だって僕が【ウォーキング】だからね」
- Walking-第1章- ( No.7 )
- 日時: 2010/12/31 22:19
- 名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)
聞きたくない言葉現在ランキングダントツ一位の台詞をさらっといいよってからに
「そうか、じゃあ俺もそっち上がってもいいか?」
「いいよ」
それを聞くとヒョイっと学校の体育館の舞台に飛び乗るように舞台に足を踏み入れた。
「結構広いな」
黒い服を身にまとった少年の背中をじっと見つめる。
「そうだね」
クルリとこちらを向く、それに合わせて喋る。
「もしかして俺殺される?」
「言葉を選んで死亡フラグをへし折ろう」
どっかのゲームみたいなことを簡単に言いやがって
「無理難題だな」
「残機無しの現実からしてみたら確かに無理難題、無茶困難だね」
コロコロと笑う顔は心なしか愛らしくも感じるがこいつはとんでもない力を持っている
「わかってんなら難易度下げてくれ」
心からそう思うよ
「どうしようかな」
「とりあえず死にたくないです殺さないでお願いします」
「5点」
意外と高評価、ストレートなのがお好みか
「何点満点中?」
「5点」
「満点か、なら助かったな」
安堵の溜息をつく
「面白くない発言5点満点」
高評価どころか嫌われてるのかと思うくらい酷い数値でした。
「それは生存率0%というんだよ。覚えておくといい」
「それは初めて知ったなぁ勉強になった。おめでとう生存率ダウンだよ」
テレビの視聴率の方がよっぽど数値を上げてそうなくらいの生存率だなってか
「マイナスに振り切ってしまったようだぜ」
「嘘良くない」
こっちは命かかってんだ嘘の一つ二つ付きたくもなる
「じゃあ「どうしようかな」からやり直していい?」
「いいよ」
どうやらまだチャンスは残されているみたいだ、ガンバレ俺
「助かったよ」
「助かるかわからないけどね」
「うるせぇい」
なんて皮肉を言いやがる
「じゃあどうぞ」
「俺はまだ死にたくないから取引をしよう」
「ほほぅ」
顎に手を置いて話を聞くウォーキング。
「何か欲しいモノはあるか、俺が用意できるものなら何でも」
言葉の尾に続けるかのようにウォーキングは言う
「じゃあ、お兄さん」
「俺はホモでもショタコンでもないからそういう趣味には賛成できません」
俺はいたってノーマルだ。でも男の娘なら……いや、ないな。
「ならどっちかが女の子ならいいんだね」
「出来ればニューハーフ落ちとかやめてくれ」
マジで男の娘かよ
「お兄さんがお姉さんになれば」
「死んだ方がマシだ!」
何その人間やますか?男やめますか?みたいなの
「じゃあ死ぬ?」
やべぇ。死んだ方が楽かもしんねぇ……。ん?
「それだ!」
「何が?」
急に声を大きくしたもんで少し驚いて見せるウォーキング
「どうして殺そうとするんだ?俺が何かしたか?別に危害を加えた訳じゃない。むしろ知り合いを殺されて怒るべきは俺じゃないのか?」
俺は間違ってない、むしろ正しく怒っていい立場にあるはず。
「そうだね、でもね」
ウォーキングは少し間をあけてニヒルぽく笑うと
「死ぬ奴ってのは弱い奴じゃない、運のない奴か下手した奴か馬鹿な奴かもしくは良い奴なんだよ。」
それはそうだ、この世界は善人が常に正しい訳ではない
「だけど!」
「だけどなに?この世界はそういう世界だろ、知らなかった?じゃあ死ねよ、そういうことだよ。この世界じゃあ死なんて日常だ、死ねない奴に明日は無いんだよ。言いたいことはわかるだろ?」
くっ……。その通りだ。死ぬつもりで生きる、この世界の常識だ。言わばこの世界のベットは金でも地位でも夢でもない、単純なモノたった一つの平等にあるモノ。命のみがベットされる。金、地位、夢、そのほか全て命をベットした結果に過ぎない。
「そうだよ、何もできない奴はそうやって下唇を噛みしめてただ見てるだけさ。運の無い奴は特にね」
外の正論なんてものはこの世界じゃ何の意味も持たない。へたすりゃ戦争よりよっぽど酷い死に方をする。認めたくないがここまでか。
「俺はここで死ぬのか?」
ウォーキングは不思議そうな顔をして首をかしげる
「はぁ?何言ってんの?誰が殺すなんて言ったの?」
「どういうことだ」
そう聞くと呆れた風に答えた
「別に殺す気なんてないよ、快楽殺人者じゃあるまいし」
「じゃあ俺は殺されないのか」
「元々そのつもりだし、殺したくて殺してる訳じゃないよ。役にあったから殺していただけだし何も危害を加えられた訳でもないし。まず勝手に殺されるって思ってたのそっちだし」
「ってことは俺は一人勝手に死ぬ死なない悩んでただけかよ」
そういうとウォーキングは皮肉な笑みを浮かべて
「そうだね、間抜けだね」
「うるせぇ」
すっごく悔しいです。先生。
「で、知り合い殺したことまだ怒ってるの?なんなら生き返らせようか」
まさかの発言。そういえばウォーキングにとって死と生は平等だと聞いたことがある。でも
「いや別にいいや」
「それまた以外」
本当に以外そうな顔をされた。ちょっと嬉しい。
「いっぺん死んだらそこまでさ、コンティニューもしくは強くてニューゲームは無しだ。死んだ奴には悪いけど運が無かったと嘆いてくれ」
強くてニューゲームが許されるのはゲームだけだ。
「中々面白いことを言うね」
「人生は一回だから命張って頑張る、それだから楽しいんだよ。二回目があったらつまんねーよ」
なんかずるしてるみたいで嫌だしな。
「そんなこと言った奴は初めてだよ。こっちの世界だと蘇生なんて当然。死にたくない奴は腐るほどいるからね」
「死にたくない奴は腐っても生きろよ。それでも生きてるって言えんならな」
ちょっと上手いこと言えた気がする。そうでもないって?まあ良いじゃないか。
「死なないってわかったら中々強気じゃないかい」
「命張って頭使って生き延びようとしてたからな死線を乗り越えりゃ少しくらい強気でも構わないだろ?次は何時命張るかわからないんだから」
「そういう考え嫌いじゃないな。どうだい」
ウォーキングが少しハット帽をずらす、顔が見えやすくなった。
「僕と組まないか?」
今度は普通にいい笑顔だった。そう思った次に脳裏に浮かんだのは
「……それって」
なんて俺は馬鹿なんだろうか。
「?」
ウォーキングの頭の上に「?」マークが浮かんでいるように見える。
「給料出んの?」
- Walking-第1章- ( No.8 )
- 日時: 2011/01/02 00:08
- 名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)
一番に金の話とは俺もずいぶん汚くなったよ。穢れ無き幼少時代に戻りたいようなそうでもないような
「欲しければ幾らでもだすよ」
思いのほか羽振りのいいお人で、とりあえず言ってみよう、そうしよう。
「じゃあ最近ここで知り合いを数名ぶち殺されて住みづらいから他国行きたいんだけどそれの金も出るんならいいぜ」
「それくらいでいいのかい?」
それくらいって実際問題ウォーキングからしてみればはした金なんだろうがなんか複雑。
「とりあえず今はそれくらい」
「そう、どこの国に行くんだい?」
そうだな、言葉を覚えるのが面倒だしここはやはり
「祖国日本で」
勘当されて出てきたもんだから帰りづらいけど実家帰らなきゃいいだけだもんね
「僕もあの国は好きだよ」
そいつは以外、高評価。
「そいつは良かった」
「そんじゃ明日迎えに行くよ」
何気ない一言
「俺ん家知ってんの?」
「朝出てくるとこ見てたから」
どうやら朝からマークされていたようです。
「そうなのか」
「そうなのだよ、朝の小銭ありがとね」
朝の小銭?朝と言えば。ああ
「朝のホームレスか?」
「ホームレスじゃないよ、ただちょっと眠くなったから横になってたら君の姿が見えてね」
眠たいからってどこでも横になっちゃいけません。
「って君?」
「だって僕の方が年上だろ?」
……。
「初耳、何歳なんだ」
「何歳でしょう」
笑って見せるウォーキング。どうだろうか、見た目的には大体15位か。だがずいぶん変な言い回しにも聞こえる。カマをかけるか。
「15」
一瞬驚いたような表情を見せた。これはどういう意味か
「内緒」
答えてくれませんでした。しかし
「それだと俺のがどう見ても年上じゃねーかよ」
「なにそれとも年下のが好み?」
ジト目で見られる。個人的には少し上か下かが好みだが明らかにその容姿だと範囲外。
「いや、そういうわけでもないが。というかまず男に興味はない」
そうだよ、真面目に考えても無駄無駄無駄。こいつは男なんだから
「そうか、じゃあ」
不意にウォーキングは黒いハット帽を取って観客席に投げた。帽子はクルクルと回り客席に落ちた。何故こんなことを———
「…………」
どうやら俺の目は何かされたようだ。ウォーキングの髪が、青くて長くて腰くらいまである。どうやったらあのハット帽に入るのか。
「これでいい?」
「何がしたいんだよ」
そうこれじゃあまるで女の子じゃないか。
「恋愛?」
いや、女の子みたいだけど。
「だから男に———」
「どこを見てそういうんだい?どうせだ上も脱いでやろうか?お好みとあらば下も脱ぐが」
うわぁー。マジか、こいつ女だったのか。て言うか
「露出狂かよ」
ふと服に掛けていた手が止まる。そして
「ああそうさ、僕は裸になるのが大好きな変態さ」
いい笑顔でとんでもないことを言い出しやがった。
「肯定すんじゃねーよ。マジで脱ぎ始めんな!」
すでに服が脱げ肩が見えてきた。
「生娘の白い肌を見せてやろうというのに」
「生娘って誰がだよ」
口をはさむと俺の目を見て
「僕が」
…………。
「その発想は無かったわ」
「そう、じゃあ続きを」
肩まで脱げた服をそのままにズボンに手を伸ばした。
「すんな!」
「もう、我がままなんだから」
ほぼ半裸の状態が長い髪に隠されて色っぽくて、それに加え軽い上目づかいが可愛い……ってなにを思っている俺
「別に可愛くないからな」
「嘘吐き」
軽く睨まれるがそれも愛らしく睨まれ
「…………。オーケー。認めよう、可愛いとしてもだここで脱ぐのはおかしい」
そうだ、その通り脱ぐのはおかしい。せめて自室だけにしてくれ。
「可愛いだなんてそんな当たり前のことを」
自信満々にあまりない胸を張る。あと脱げ掛けだから目のやり場に困るから。それにしても
「お前の自信はどこから湧き出るんだ」
「心の泉から」
どこのメンヘラだ!
「偉く乙女チックな言い回しだな」
「もしくは幾多に骨抜きにしてきた奴らを見てきて」
「偉く生々しい言い回しになったな」
「骨抜きってのは言葉のまま骨を抜いてだな」
「本当に偉く生々しいな!」
滅茶苦茶言いやがって、忘れてたけどこいつはウォーキングじゃん。
「いや、それほどでも」
「どこをどう聞いたら褒め言葉になるんだよ」
こいつの耳は耳として機能してないんじゃなかろうか。
「そんなことよりソフトクリームとアイスクリームの違いについての議論に戻ろうじゃないか」
「何時そんな議論してたんだよ、記憶に無さ過ぎてむしろしてたかも知れないって思うだろ!」
駄目だある意味ついていけない。やっと服を着なおし始めたか。
- Walking-第1章- ( No.9 )
- 日時: 2011/01/03 20:50
- 名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)
「全く君は話をずらすのが上手いな、本筋に戻ろう」
…………。
「明らかに喧嘩売ってるよね」
「愛情を売ってる僕になんて言い草だ、今すぐここにサインをしなさい。そうすれば無条件で君に愛を売ろう」
何その押し売り絶対買わないしサインしない。ストップ詐欺被害。
「金もらってもいらないです」
服を着なおしたウォーキングはどこからともなく拳銃を取り出した。あれは見た感じワルサーPPSかなって俺の銃じゃ———
「馬鹿を言うな死ぬぞ!」
銃を突きつけられる。言葉にならなぁーい。
「すんません、是非売ってくださいお願いします」
何一つ迷いなく土下座。これが俺の土下座だぜ。
「始めからそういえばいいのだ」
顔を上げて正座の状態になると何故か抱きついてきた。
「…………」
オーゥイェーイ。シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる、それに暖かい。やばい何だろこの気持ちは
「どうした?」
眼前に可愛らしい顔が目に入る。
「いや、可愛いなと」
すると抱きついていたのを離し少し距離を取られる。
「面と向かってそんなことを言うんじゃない恥ずかしいだろ」
「だったら少し位顔を赤らめろ!真顔で言われたらどう反応していいかわからんわ!」
「笑えばいいと思うよ」
「間違いなく引きつった笑顔になるよ!」
「それはそれで」
それはそれで何がいいんだよ。
「もういい。こんな長い茶番は初めてだ、さっきまでとお互い違いすぎるだろ。キャラが違いすぎる」
「確かに、僕は女の子より男の娘の方が受けが良かったと思うのだが」
駄目だ疲れる。こいつといると絶対疲れる。もう突っ込まないぞ。
「黙らっしゃい。今日はもう帰る、話は明日にしてくれ、疲れた」
「もう今日は昨日の明日だよ」
「ややこしい言い回しをするな」
肩を落とし帰路に就こうと向きを変えて背を向けた。
「はいはい。後で出向くからその時色々話そうね」
「ったく」
そういえば。
「そうだ」
「どうしたの」
クルリと振り返ると青い髪を手でいじりながらキョトンとしてこっちを見てる。
「なんて呼べばいいんだ?」
それを聞くと一瞬嬉しそうな笑みを見せて答えた
「ウォーキングだと長いしね、ウルカ、もしくはニーナ。イリューシナでもいい、日本名がいいならそうだな萌子なんてどうだい」
滅茶苦茶名前あるんだね。どうせなら何個か使ってみたいな。つーわけで
「人目が無い時はウルカ。仕事中は萌子にしようかな」
「また面倒なことを」
早速使ってみることに
「ウルカが言い出したんだろ」
多分少しはにかんだ表情だっただろう。俺が。
「早速使ってきたか」
それに対して愛らしい笑みの中に薄暗さを含んだ表情を見せてきた。
「じゃあまた明日なウルカ」
そういうと「後でだ」と言われた。別にいいじゃんそのくらい。
結果としてだがそういう仕事なんかよりも面白そうな仕事が転がり込んできた。結果論だが世の中良いように回ってる。
- Walking-第1章- ( No.10 )
- 日時: 2011/01/10 03:46
- 名前: 深山羊 (ID: S.vQGXD5)
◆
「とまあ、こんな感じですかね」
まあ思いだしていた三分の一くらいしか喋ってないけど。
「苦労されてるんですね」
「ええ。好き好んでこんな仕事しませんよ。それでも給料がいいので悪くはないんですけどね」
実際ほとんど好きこんでやってるし給料もいいどころではなくてウルカ曰く「欲しければ毎月好きな額言ってよ、用意するからさ」だそうな。
「聞きづらいのですが。一応、その女性の遺体を確認したいのですが。まだ残っているのでしょうか」
あまり好ましくない表情をされるがそんなことこっちが嫌だよ。あんたの女の裸なんて。
「伝手で冷凍保存して貰っているので、場所は例の地下街の白木屋という店にいますので僕の名前出していただければ」
「わかりました、それはそうと今回の依頼についてですが何か分かり次第連絡を取りたいので連絡手段として電話番号かなにかを教えていただけると幸いなのですが」
俺はポケットの中から手帳とボールペンを取り出した。
「携帯でもいいですか?」
「ええ」
そういうと男は携帯を取り出したのでボールペンと手帳を手渡した。スラスラと男は手帳に自分の携帯番号を書き綴る。
書き終えて手帳とボールペンを返してもらい電話番号を確認をとる。それでから今度はこちらの連絡手段として携帯電話の番号を書きその頁をちぎり渡す。
「何かあったらそこへ連絡してください」
その電話番号に眼を通し終えたのか丁寧にたたんでから胸ポケットに入れた。
「それともう一つ」
「何でしょうか」
あまり言いたくはないが仕事だから仕方ない。
「代金の方なのですが」
それを聞くと男は内ポケットから札束を取り出し
「これでどうですか?100万円ほどあります。前金として45万、残りは見つけてからということで」
こいつは予想外。本当なら50万でも十分だとウルカに言われていたのだがこれは僥倖だ。
「わかりました。では前金として45万。残りは犯人を見つけ次第ということで」
前金の45万を男は一枚ずつしっかり数えてからこちらに差し出す。一応俺も45万あるか確認してから内ポケットにしまった。
「では、僕は用事があるので。珈琲の代金は払わせていただきますので」
眼の前の珈琲をグイッと一気に飲み干してから男は立ち上がり出入り口のレジで精算してからカフェを後にする。それの背中を見届けて5分してから珈琲が入ったカップをマスターの前まで持ってきてカウンターで腰を下ろす。
「一口位飲め」
「やだよ。泥水みたいにまずいし」
珈琲なんて飲めたもんじゃない。誰が発見して飲み始めたんだか。
「作った本人の前でよく言えるな」
「そういやそうだけどさ。ミルクと砂糖たっぷりの紅茶ちょうだいな」
小さく溜息をつき紅茶を入れてくれるマスターはなんだかんだ言っていい人だと思う。猫舌の俺からしてみれば淹れたての熱いのがいいってのが理解しかねる。ミルクを入れて少し温くなった甘い紅茶こそジャスティス。
「はいよ」
手早く出されたミルクティーを一口。口の中に広がる紅茶の味とミルクのまろやかさ、それに砂糖の甘さが丁度いい。
「本当にマスターの紅茶は美味いよ」
「珈琲の方が自信があるんだがね」
「まあその内戴くことにするよ。その内ね」
また一つ溜息をつくマスターを見ると苦労を掛けるなと感じる。初めてここに来てからもだし帰って来てからもだし。もう一口、今度はグイッと流し込む。
「それはそうと地下街行くならお遣い頼まれてくれないか」
どうやらさっきの話は聞かれていたみたいだ。マスターになら別にいいんだけどね
「それくらいならお安いご用、と言いたいけど」
「条件は」
分かってるくせに聞こうとするのはマスターらしいというか。
「もう一杯同じの」
そういい終わる前にもう一杯目の紅茶を入れ始めていたマスターはやっぱりいい人だよ。
「はいよ」
出されたミルクティーは文字通り同じ味がした。
「んで、お遣いって?」
「直輸入の珈琲豆取りに行ってくれ。場所は白木屋の近くの珈琲工房ってところだ」
鼻で息をつく。
「都合のいい位置にあるもんだな」
「ついでだついで、いってきてくれよ」
行かない訳にはいかないけど問題は
「萌子と一緒に行くから届けるのは萌子かもしれないけど」
「萌子ちゃんか、別に問題ないがお前紅茶飲んだろ」
「確かに……」
痛いところをついてくる。萌子という名前なのでウォーキングとは言ってないから基本的に俺が萌子に指示できたりする。何故かあまり拒否しないのが逆に怖い。
「おとなしくお前が持ってくるんだな。また飲ましてやるから」
自慢の髭を持ちあげる。やっぱいい人だよマスター。
「了解」
椅子から立ち上がりレジをスルーして外へ出る。昼間なので日光が燦々と降り注ぐ。最近夜行性の様な行動ばかりで日の光がたまにキツイ。さて、それじゃあ依頼内容の行動に移るとしますか。お遣いも合わせて。
- Walking-第1章- ( No.11 )
- 日時: 2011/01/07 23:48
- 名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)
携帯を取り出しウルカに電話をかける。ワンコールの後すぐにつながる。
「もしもし」
『いやぁん。だめぇ!ああん!』
ピッ。何一つためらわずに通話を切る。どうやらかけ間違えたみたいだ。全く俺の携帯の癖にいうことをきないとは生意気な。突然手の中で携帯が震える。ディスプレイには萌子と表示されている。全力で取りたくないがそういう訳にも行かず
「もしもし」
『どうして急に切ったりしたんだよ』
あんたのせいだよ。
「そりゃ切りたくもなるでしょうが。馬鹿ですか」
『馬鹿じゃない。変態だ』
駄目だこいつ。早くなんとかしないと
「馬鹿のがマシだ変態」
『そいつは初耳だ。ところでどうだね』
「まあ順調ってことでいいんじゃないでしょうか」
一つ間を開けて。
『君のロリコンを直す方は』
「……」
『……』
沈黙。
「前々からよく思うんですけど」
『何かな』
少し声をきつめにして。
「喧嘩売ってます?」
『いやいや、これも一瞬の愛だよ』
それは盛大に儚く散るんでしょうね。
「一種のじゃないんですね」
一応指摘はしてやるよ。
『そんな細かいこと気にするなよぉ〜』
「そうですね、そんな細かいこと言ってら切りないですもんね」
スルー。
『……』
帰ってこない返事。
「どうしたんですか?」
『……なんでもない』
ちょっと涙声だった。しかし優しく声をかける俺じゃない。
「ならいいんですよ、依頼の件ですが直接会って話した方がいいと思うんで一回そっちに行くんで待っててください」
『全裸待機なら任せて。この間からずっと裸で待ってたから』
この間って……。
「やっぱりこのまま用件伝えたんでいいですか?」
すごく行きたくない。
『服着るから来てください。お願いします』
「わかりました。あと半刻もしないうちにつくと思うんでそれまでに服着といてくださいね」
駐輪場まで歩いて行って単車に乗ればそれくらいだろう。
『出来るだけ布の薄い服着とくよ』
「その薄さに比例して滞在時間は減りますから」
出来れば薄着で二秒でかえらせてくれ。
『厚着すれば長くいてくれるんだね。徐々に脱がされて行く楽しみも———』
「絶対俺が脱がすことは無いんであしからず」
あんたに欲情する日が来たら次の日は地球最後の日だ。
『自発的に脱ぐのは良いんだね』
「なんでそんなに脱ぎたがるんですか。この際だから言いますけど定期的に携帯に全裸の写メ送るのやめてください。この間なんて昔の知り合いと飲んでたときに来たもんだから色々と危なかったんですよ?」
久しく合って笑いながら酒飲んでたら急にメール来て酔ったせいかパパッと見ようと隠さずにメール開けたら変態の変態写メールによって隣の友人にどんな目で見られたか。
……あれ?危ないじゃなくてアウトじゃね?畜生がっ!
『何故君は僕の楽しみを奪おうとするんだ』
「何故貴方は俺の平和を奪おうとするんだ」
ことごとく俺にツッコミさせてくれるとは元関西人冥利に尽きるっつーの。
『愛かな』
「歪んでますね」
そりゃもうメビウスの輪も裏表をハッキリさせるレベルで
『争いのない人生なんて退屈だろ?』
「それは同意しますが、一時の平穏くらい望んでもいいじゃないですか」
別に毎日植物の様な静かな平穏な日々が欲しい訳じゃないけどたまにはゆっくりしたい。
『へいおん!じゃないか』
「イントネーションおかしくないですか?」
『イントネーションは気にするな』
変な歌が聞こえても気にしない位の心構えは出来たよ。
「とりあえず今からそっち行きますから服きててくださいね」
『しかたないなぁ』
「それじゃ」
『ちょっとま———』ツーツー」
強制終了。
どんだけ俺の体力と精神を削り取る気だ。特に怪異的なものやクトゥルフ的な神々を目にする訳でも断片に触れる訳でもないのにSAN値チェックをされなければならないとはなんという不運か。
と言っても選んだのは俺自身だからピシッと文句を言う訳にはなぁ……。
「しかたないよな」
そうこう考えているうちに駐輪場についた訳だ。
さて、ここからが本番と言いたいが報告がある。仕事はそれからかが始まりだ。おとなしく頑張るとしますかね。