ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 機械騎士 ‐knight‐ ( No.1 )
日時: 2010/12/27 14:21
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)
参照: テスト

プロローグ

—ヘブン軍付属学習院、ナイト格納庫にて—

 後頭部で一つに束ね、ポニーテールの様にした自分の嫌いな血の色に似ている、赤の髪が風になびく。
 大量に掻いた汗で、黒と白を基調としたパイロットスーツの中が湿っていくのを感じた。そのせいでか、中に着ているランニングが肌にまるで全身タイツのようにぴったりとくっついている。少し気持ちが悪い感触だ。今すぐ脱ぎたいという欲求に襲われる。
 「雨崎少尉、ありがとうございました」
 変声期を終えていないまだ高い声が薄暗く、油臭い格納庫内に心地良く響く。
 まだ十五、六歳ぐらいの幼さの残る顔立ちで、栗色の短い髪の、新人用の白を濁らせたような水色のパイロットスーツを着た少年が頭を下げていた。照れるような表情をして。
 俺はその行動に僅かながらも戸惑った。
 別に、礼をされるほどのことはしてはいない。むしろ、しないで欲しい。

 人を殺すための技術を教えているようなものだから。

 今、彼とやっていたことは『ナイト』同士の模擬戦だ。戦いながら、ナイトのコックピット内にあるモニターを通じて、敵を倒すコツや命取りになることなどを教えていた。
 彼から誘いがあったのだ。
 『敵からみんなを守る方法を教えてください』と。
 このヘブン軍付属学習院の中でこんなにも熱血な生徒は見たことがなく、感心するほどの熱心さだったが、それが時に“迷い”にもなる。わかるんだ。俺は知っているんだ。あの時アイツがいたから。彼は、アイツに似ている。俺は彼にアイツの面影を映している。駄目だ。そんなんじゃ駄目だ。それじゃあアイツから“抜け出せない”じゃないか。
 「覚えておいて欲しい」
 「はい」
 「迷ったらお終いだ。だから、迷うな」
 少年は不思議そうに俺を見つめ、何かを言いたそうだった。
 「あの」
 その何かを言われる前に、俺はこの場を去った。
 ——ジャーナリスト兼日本の軍人として戦争に行き、この世を去った父のことを俺は思い出す。
 十年前、父さんはあの明細柄の軍服を着て、俺の頭を撫でて、十五年間大切にしてきたという埃と砂でまみれた黒いカメラを俺に渡した。「もう帰って来ないかもしれないからな」と低く聞き取れない程小さな声で呟いて。今でもそれは大切に保管している。“あの時”の父さんを忘れないように——
「父さん」
 どうやら俺は“殺す方”になるかもしれない。そんな気がするんだ。
 ——そして俺は天を仰ぐ。

 空は、何も知らない無垢な少女のようで。

   

  続く