ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 葬送楽団  更新中(。・ω・。)ノ♪ ( No.5 )
日時: 2011/01/10 12:58
名前: まる (ID: k41H6VkA)

第二夜 奇妙な楽団


  暗い舞台裏を抜けると、少女は小さなランプを持って自室へと繋がる狭い廊下を歩いていた。
  ヒールのある靴の音が、コツコツと廊下に反響している。もう辺りは暗く、このランプが無ければ何も見えないだろう。
  ランプの炎は、ゆらゆらとオレンジ色に揺れながら少女の足元を照らしあげる。床は光沢を失ってはいたが、大理石か何かの豪華な素材で作られてた。
  廊下を進みながら、少女はふと足を止めて、横を向いた。目が慣れてきたのか、ランプなしでもぼんやりとだが、“もの”の形が分かるようになってきたのだ。
  少女はランプを、壁に近づけた。
  ぼんやりと照らしだされた壁には、幾つもの画が飾られていた。一歩、少女は画に近づいた。うっすらと埃を被りながらも、優しそうに微笑む婦人の肖像画。横には深く皺の刻まれた老婆に、黒い髪をした少年。
  たくさんの肖像画が、長い壁に一つずつ飾られていた。何もない廊下に、数多い肖像画。
  少女は長い廊下を進みながら、画を眺めていた。それは、今もかつてのように存在しているかのようだった。まるで、今にもこの画から顔を覗かせて、人々の笑い声が聞こえてくるかのように。
  この画たちは、昔から描かれ続けていたのだろう。個々から、年代やその人物の性格がうかがい知ることができる。
  少女は、画に夢中になっていた。時間も疲れも忘れて。今まで夢中になったことが無かった少女にとってとても不思議なことだった。
  歩くにつれ、最後の一枚に近づいていった。少女はゆっくりと近づいた。
  その画は他の肖像画に比べ、まだ少しだが新しかった。黒、灰色、茶色、それだけしか、絵の具を使っていないと思うほど暗く、排水口に流れる水のように澱んだ色だった。
  描かれた人物は異様な男だった。瞳が隠れてしまうほど長い前髪に、無精髭。白髪が混ざった灰色の髪はぼさぼさで、手入れをしていないと人目で分かる。皺も深く刻まれ、口元は笑みを作ってはいるものの、酷く滑稽でヤニだららけの黄ばんだ歯が汚らしい。
  不清潔な汚い男だった。
  醜い、と少女は思った。
  今までの数多い肖像画は、皆優しそうに笑い、幸せそうだった。それと比べると、男の肖像画は暗く、重い。
  少女は瞳を細め、ランプを持っていない方の腕を上げて男に触れた。
  これがクレドリュー一族を滅ぼした男か。少女は声に出さず呟いた。
  今現在はここ、クレドリュー家の屋敷は一定期間になると新たな客と収入を求め旅立つ劇団が公演場所として使っている。今クレドリュー屋敷、つまり劇団がいるこの場所は、周りには何も無く寂れた小さな農村だった。そのためクレドリュー家の屋敷は他の屋敷と比べると小さいものの、この農村にとってはかなり大きな建物であった。
  少女はこの村に立ち寄る際に耳にしたことを思い出していた。クレドリュー家は血に塗れ、悲劇的な最後を遂げた場所だという事を。