ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 嘘つきルナティック ( No.3 )
- 日時: 2010/12/29 17:53
- 名前: 夜深 ◆4QOlS8qZ.. (ID: a6i4.RaK)
*第朔話「嘘つきの憂鬱」*
お月様、きらきら。きらきら。
お星様、きらきら。きらきら。
「よく来たね、望月さん」
耳を突く、こそばゆいような彼の声。
「・・・はい」
力なく返事をする、私。
おいおい、今流行りの草食系って奴かよ。
一人突っ込みをしても、やっぱり気分が乗らない。
お月様やお星様の輝きが好きなだけで、この天文部に入部した去年の春。
部活のある日は放課後までに即、早退ばっかしてた私。
何故っていうと、
池澤くんに会うのが怖くて。
でも、久々に会ってみると嬉しい。
相変わらず格好良い気がする。
「あの、でもやっぱり・・・帰ります」
言い終わらないうちに声がどんどんしぼんでいく。
「えっ、何で」
目の焦点が合う。
ああ、駄目だ、合わないようにしてたのに。
「ごめんなさい、今日は塾があるんです・・・!」
ひとこと小さな叫びをあげて、思わず、三階の部室から一階の昇降口までダッシュ。
何これ、走れメロスみたいに早かった。もう夕日は沈んじゃったけど。
お月様、真っ白。まだお星様は出ていない。
恥ずかしくてダッシュしてきたけど、このまま帰ろうかなぁ。
戻るの面倒だし。
「よく来たね、望月さん」
望月さん。 望月さん。
池澤くんの声がこだまする。
いつもは部活休んでばっかだったけど、今日は来て良かった。
・・・また気が向いたら、部活行ってみようかな。
去年の春は天体の方に興味があったけれど、
今は天体よりも、天文部部長のことが気になって仕方がない。
今日、本当は塾なんて無いのに。
嘘を吐いてしまった。
暗くなりつつある空を精力のない目で見上げる。
「あら、こんばんはぁ」
嫌に甲高い、近所のおばさんの声。
「・・・こ、こんばんは」
なるべく笑顔をつくって会釈。 きっとこの笑顔は引きつっている。
「今日はきちんと部活に行ったのねえ、リエちゃん?」
「あ、はい。 少しは行かなくちゃ、部活に貢献できないですから」
弱弱しく口を動かす。
彼女はにっこり笑って、私と反対方向を歩き出した。
はっきり言って、こういう大阪人なおばさんは好きじゃない。
本当は、部活なんて、学校なんて、行きたくない。
今日部活に行ったのは、池澤くんを一目でも見る為。
今日学校に行ったのは、幼馴染の亜美(つぐみ)に誘われたから。
亜美に「学校行こうよ」って誘われなきゃ、私は絶対に引きこもりになっている。
「ただいま」
がらがらとリビングの扉を開ける。
「おかえり。ねえ、今日の夕飯、カレーかシチューどっちが良い?」
お母さんの良心的な笑み。
「どっちでもいい」
ぽつりと言って、お弁当を洗う。
冷たい水が私の手を伝う。
「エリ、今日の体育の授業はどうだったの」
お母さんは小学校で体育の先生をしている。
だからいつも、体育のことを気にする。
「長距離走、クラスで一番。 順調だったよ」
平気な顔で笑う、私の顔。
「ふふ、それならいいわ。
学校の宿題、さっさと済ませてね」
どうやら上機嫌なお母さん。
ごめんね、お母さん。
本当は長距離走、クラスでびりだったんだ。もうサイテー。