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Re: 不幸少年の日常+非常識 ( No.29 )
日時: 2011/01/10 15:25
名前: 魑魅魍魎 ◆UTmvEGhzaE (ID: OeXJRIuY)




「昔が恋しくなる事はあるか、帰蝶」


帰蝶。それは私の本当の名前。不死族の者以外誰も知らない、そして誰にも教えてはいけない私の本当の名前。


「いいえ、ありません」


私は彼の嫁になった。それならば皆忘れてしまおう。懐かしむ家も、帰る家も、全ては彼の居る所。


「そうか……」

決して長続きしない会話。でも、仲が悪いわけではない。


「……」


爽やかな春風が頬を掠め、髪を揺らす。

その風に揺られ、腕の赤ん坊が目を覚ます。そして、元気な泣き声を上げる。


「お腹がすいているのでしょうかね」


赤ん坊に乳房を含ませる時、僅かながら母になった喜びを感じる。そして、虚しさも感じる。


「……子は預けてくれば良かったものの……」

「まぁ、まだ甘えたい年頃ですもの」


かつての少し雑な言葉づかいもなく、驚くほど美しい淑女になっている女王。


「母様、父様ー!!」

遠くから駆けてくるのは15の長女。他に3人の弟がいて、2人の妹がいる。

「弟は私に任せて下さって結構です。お二人はごゆっくり!」

と、母の腕の子を優しく抱き、また戻って行く。


「まぁ……」

嵐のように現れ静かに去っていく長女。頼もしいのだが、少し危なっかしい。


「帰蝶」

不意に名前を呼ばれ、振り返ると彼の腕の中。

   ……もう嫌ではない。




「今なら、貴方様の愛情も理解できます」


長い事彼と共に過ごし、自然と愛情が湧いて来たのだろうか。
 今は彼を恨みはしない。一生付いて行こうと決めている。


  思い出す彼らは、今は元気なのだろうか。