ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨待ち人。 ( No.35 )
- 日時: 2011/01/09 20:43
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
夢を見た。
何故か自分は海の上に浮いているように居て、瑠璃色の海をただただじっと見ていた。
墓参りしている時みたいに、ボーッとしていて。花弁は今海の底に沈んでいるんだろうなぁ、とか思いつつ。
(……あれ?)
ちゃぷん、と海に小石を入れたような音がすると俺の見ている部分の海が小さく渦を巻きだした。
何だと思ってみると、
血 ま み れ の 手 が 浮 か ん で き た 。
「うわああっ!!」
血まみれの手を見慣れた事の無い俺は思わず叫び声を上げてその場から仰け反る。
……そりゃあ血まみれの手なんて慣れるわけが無い。たかが一回で此処までなるんだから。
頭の中でどこか冷静な思考が浮かんできたけれど、とりあえず無視しておいてその手を見ていた。と言うより魅させられていた。
そして手はぶるぶると震えながら動けない俺の脚を掴む。
「……っ!」
けれど、今度は叫び声が出て来ない。人は怖がると意外と声が出ないのかもしれない。
そして手は容赦なく俺の脚を海の中へと引きずり込む。冷たさは感じないけれど背筋は凍ってゆく。
———何で助けてくれなかったの?
———なんで私を見捨てたの?
———私を愛していたのは嘘なの?
(この、声は……)
海中に居て少しすれば耳にわざと響かせているような甲高い、叫ぶような声が聞こえて来る。
普段聞くような事の無い声が何故か……いや、確かに身に覚えがある声だった。
そしてこの声が誰の声が誰の声なのか考える余裕など無いとでも言う風に声はますます耳に響いて来る。
———酷い。
———酷いよ。
———ルイなんか消えちゃえ。
———嘘つき!!
「違う……!」
耳を両手で押さえながら声に紛れないように叫び返す。
けれど、もう、声は返って来なかった。
独りぼっちの海の中。
僕は彼女を殺したのか。だから夢で僕に復讐ってか。
彼女はずっと独りでいるのか。
誰のせい? 僕のせい? そうなの?
誰か教えてください。
どうして僕に雨は降らないのか。
其処で僕は唐突に目を覚ました。
∮
「晴香っ!!」
俺はガバッ、と起き上がって気付けば右手を伸ばしていた。けれどその右手は何も掴まず、目に空しく映るだけ。
……あぁ、夢だったのか。
微妙に安心し、微妙に絶望しながら俺はベッドから出る。カーテンをしていないこの部屋の風景が“真夜中”を知らせていた。
一瞬二度寝しようかと迷ったけれど眠気が完全に失せているので放置しておく。
(……顔が冷たい)
気付けば、雨じゃない雨が目から流れていた。