ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨待ち人。 ( No.85 )
- 日時: 2011/01/25 19:05
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
- 参照: http://雨待ち人。更新なうです←
「ルイ」
気づけば、俺のほほを青白く華奢な手が撫でていた。
その前の記憶とか、そんなの全て捨てて、今ある状況を感じて体を起こす。
其処には、
「…………」
「どしたの?」
晴香が居た。
あの日のあの時の前までずっと見せていた、儚いような、芯の通っているような笑顔を見せて。
……あれ、俺晴香と同じになっちゃった?
何て能天気な思考を働かせている余裕も無く、俺はただ呆然と晴香を見ていた。
晴香は、そんな俺を不思議なものを見るような表情で見返してくる。
「久しぶりに恋人に会ったんだから、もっと嬉しそうにしてよ〜」
「…………あ、うん」
そう言って自分に抱きついてくるのは、人懐っこい晴香に間違い無い。
俺は徐々に顔を緩ませて、最終的には微笑んだ。
……それで、此処は何処だよ。
「ルイ」
「……何?」
「辛くないの?」
何が、と言おうとして止めた。
晴香は多分知っているのだと思う。もし自分が死んだら俺が何をするかを。
事実、言った事すらあるし。
俺は首を静かに振ってから、淡く微笑んでみた。
「…………俺は、辛くない」
「嘘でしょ?」
何もかもを射抜きそうな大きくて綺麗な瞳が、俺を見つめる。
「私の知ってるルイはそんな哀しそうな笑み、浮かべないもん」
「……何言ってんだよ、俺はルイだ」
「ねぇ、楽になりたくないの? 此処に居れば、辛いよ」
何かを懇願する子供のように強く、そして伺うように晴香は俺に言ってきた。
……けれど、俺は俺で持っている感情は違った。
・・・・
やっぱり此処にはいられない、と。
「晴香、ごめん。俺にはまだやらないといけない事がある」
「…………そっか」
意外とあっさり、晴香は納得した。
あの時だったら自分が折れるまで絶対に主張は曲げないのに。
それこそ、俺の知っている晴香じゃないのに、な。
「……でも言っておく。私、ルイが此処に来ると思うの」
「何で」
「悠、」
「———ルイっ! 馬鹿ルイっ!!」
目を開ければ、今にも泣きそうな秋の顔があった。
……せっかく良い所だったのに、なんてね。