ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: そして真実 ( No.1 )
- 日時: 2011/01/08 21:52
- 名前: Neige (ID: lIcPUiXw)
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「美代、俺はこのとおり何にもないやつだけど結婚してほしい。必ず幸せにするから」
三年半付き合った彼からのいきなりのプロポーズだった。
「え……ちょっと、考えさせてね。前向きに検討するからね」
彼はくすくすと笑って、
「前向きに検討って……。うん、分かった。ずっと待ってる」
そういって優しい目で私を見る。ああ、この目だ。この目が私はとても好きだ。
彼とは三年半前、友人を通じて知り合った。いい歳になっても彼氏を作ろうとしない私に見かねた友人が、自分の兄の友人を紹介してくれた。聞いたことある大きい保険会社に勤めていた彼は、とても誠実で優しい人だった。
何度も連絡を取り、会って話すうちに私は心を惹かれていった。そしてある時彼から交際を申し込まれたのだ。
プロポーズ自体はそう驚いてない。三年半付き合う内に結婚のこともすこし考えていたからだ。ただ心の準備ができていないだけで。
「テレビつけて」
私はテーブルの上においてあるリモコンのボタンを押す。
『昨日、都内で殺人事件が相次ぎました。いずれも証拠は残っておらず警察は——』
「……美代、気をつけろよ」
「うん。拓も気をつけてよ?」
横目で彼を見ると、困ったように小さく微笑んで、テレビに視線を戻した。ニュースなんていうのは、大抵他人事で、自分の身に起こってみないと現実味もわかない。だから彼が深刻そうにそう言ったのが少し変だったのだけれど、次々と変わっていく画面をぼんやりと眺めているうちにそんなことはすっかり忘れていた。
「じゃあ行ってきます。今日の晩飯はカレーがいいな」
バタバタと玄関に向かう彼と私。彼はドアをあけて振り返り、そういった。
「分かった、カレーつくるね。いってらっしゃい」
ドアがガチャリと音を立てて閉まる。私は走ってリビングに向かい、食器を運んで洗う。さて化粧でもするかなとドレッサーの椅子にすわった。
「っ……!」
鏡に映るリビングのまた向こうの玄関に、仮面をつけたスーツ姿の男が立っていた。
バッと振り向くとその姿はもうなかった。
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