ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽装された幸せの裏には影 ( No.2 )
- 日時: 2011/01/09 17:14
- 名前: Neige ◆/h56TzYiHI (ID: lIcPUiXw)
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今朝のアレは、何だったのか。
ドレッサーの鏡越しに見えた謎の男。思い出すと背中がゾッとする。
「ちょっと、美代ちゃん来て」
バイトの休憩時間、一人で温かいコーヒーを飲んでいるとテーブルに集まっていた先輩たちに呼ばれた。
「はい、何でしょうか」
先輩のうちの一人が私を椅子に座るよう促した。白い椅子をひき、私は腰を下ろす。
「ねぇ知ってた? この前バイトやめた片山さんいたじゃない。片山さんのご主人が自殺したんだって」
周りにいた人たちは、えーとかうわぁとかそれぞれ感嘆をあげていた。私も思わず眉間にしわがよってしまった。
片山さんは五歳上のとても優しい人で、まだバイトに入ったばかりの私を励ましてくれたりしたひとだ。ご主人の話もたまに聞いていた。
身近な分、他人事に思えなくてゾッとする。
話していた先輩が、みんなの様子を見て、また話し出す。
「なんでも、片山さんのご主人会社経営をやってて自殺する前の一ヶ月ほど生活も苦しかったらしいのよ。で、追い込まれて自殺をしたんじゃないかって……」
「やっぱり働きづめもよくないわよね。片山さん若いのにかわいそうだわぁ……」
皆があれこれのを私は呆然と聞いていた。ただ、怖かった。人が死ぬのは怖い。
「じゃあねー。お疲れ様」
今日のバイトが終わったのは午後七時だった。残っていた先輩たちに挨拶をして私は店から出る。マフラーをぐるぐる巻きにして冷えたアスファルトへ踏み出す。
あ、しまった。手袋を忘れたな。もうすでに冷たい指先を白い息で少しでも温めようとする。白い息が空へあがった。
帰ったら、プロポーズの返事をするの。そしてカレーを作ってあげよう。あっそうだった、スーパーよらないと。いいや、めんどうくさい。あのコンビニでいいか。
考え事をしながら、自転車が二台止まっている小さいコンビニにはいった。
「えー千二百十五円です」
がさがさとバックから財布をとりだす。中を開けるとレシートが一枚落ちた。
「あっ」
後ろに並んでいる人と店員さんが怪訝な目をしたので、レシートは拾わずにさっさとお金をはらって商品をうけとる。
そしてガサガサと食品のつまったビニール袋を片手に無心でアパートに向かう。
アパートの茶色い階段をカンカンと鳴らしてのぼっていく。二〇五の部屋の前に来て、ドアノブに手をかける。
ガッ
あれ、あかない。いつもはこの時間、必ず拓は家にいて「おかえり」って言ってくれるのに……。おもむろにおもちゃみたいなカギをとりだし、カギ穴に差し込む。
ドアを開け、玄関にはいるが電気もついていなかった。玄関に、食品のはいった袋と私バックをおいてずかずかとリビングに向かう。
テーブルの上に、拓からのメモ用紙で書かれた手紙を見つけた。
“美代”
とだけかかれた手紙。
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