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Re: 偽装された幸せの裏には影 ( No.8 )
日時: 2011/02/05 11:56
名前: Neige ◆/h56TzYiHI (ID: lIcPUiXw)






「拓? ちょっと、冗談はやめてよ。どっかに隠れてるんでしょ? 出てきてよ」
 薄暗い部屋に呼びかける。どこかに隠れているんだと思って、電気をつけにいく。パチッ
 さっきは暗くて、はっきり見えなかった机の上の手紙には続きがあった。

“本当にすまない。逃げてくれ、生きてくれ”
と、小さい字でかかれていた。字は震えている。

 何かが、起こっている。逃げてくれ? 生きてくれ? 何が彼にそんなことを言わせるのか。
 大体、何故こんな手紙をかくのか。なぜ彼はいないのか?

 混乱のあまり、携帯電話という通信手段を忘れていた。
「あっ……そうだ、携帯!」
 た、の行から拓の名前を選択し、090からなる電話番号に電話をかける。
 プルルル……プルルル……ちょうど、3コール目の時。

 出た。
「ちょっと、拓!? どういうつもり、早く家に帰ってきてよ。変な手紙かかないで」
 興奮気味に、私は責めたてた。拓が出てくれてよかった、少し嫌なほうへと思考回路が流れていたから。
 ……返事がない。しーんとしている。電話の向こうからは、怒ったような女の声が聞こえる。
「ねえ、拓。怒らないから、帰ってきて」
 やはり、返事がない。おかしい。

ピーンポーン

 そのとき、呼びベルがなった。拓かもしれないとおもい、電話をつなげたまま玄関へ走った。
「たっ……」

 拓、と言いかけて止まった。

 目の前にいた男は、あの男。今朝見た、あのスーツ姿のあの仮面男だった。

『ただいま。レシート落としてたよね。とどけにきたよ』
 男はポケットから、私がコンビニでおとしたレシートを取り出す。声が二重にきこえるのはなぜ? 携帯電話と、直接きこえる声。
「な、なんであんたが拓の携帯を……」
 その男が右耳に当てていた携帯は、私と拓とで携帯電話ショップに出向き、一緒に選んだ色違いの携帯。
 ストラップまで一緒だから間違いない。

 電話口からきこえた女の声は、私だった。ずっと、こいつはここにいたんだ。そう思うと、ゾッと嫌悪感が一気に倍増した。
 声をきくと、黒板をひっかいた音のような嫌な音のように聞こえる。

 こいつ、生気がなさすぎる。

『ははは。この携帯の持ち主ならもうとっくにしんでるよ。自殺だよね』

 今、何て言った?



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