ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 籠の中のアリス(準備中) ( No.1 )
日時: 2011/01/11 14:47
名前: 白螺旋 (ID: e.JI7EiC)

/ 序章


——お嬢さん、お嬢さん、そんなに慌てて何処へ行く……?



「はあ、はあっ、はあ……っ」



 夢中で走りながら、何度も感じる。
 私に話しかけるその声を。

 優しくて、とても柔らかくて……私をまるごと包みこんでくれそうな、それ。

 けれど声の聞こえる後ろを振り向いても、誰かが見える訳じゃない。
 だからまるで、私の頭の中で声が響いてるような錯覚を起こしてしまう。

 そしてそのせいか、私はこの声が、怖いと思う。


「はあ、はあっ……」


 息が荒くなっていく。胸が苦しくて仕方がない。

 なのに私は走ることを止めない。


 どうして?


 分からない。なぜ私は走っているの。
 この声が怖いから?

 我ながら変だと思う。
 自分が行動している理由が分からないなんて……


「……あっ」


 気付かなかった段差に、見事に足を引っ掛ける。
 突然のことに反応できなかった私は、とうぜん前に転倒した。


「いっ……た…………」


 こうして何度も変なこけ方をしているせいで、制服はしわだらけでボロボロ。

 もう嫌、なんて呟いてみるけど、ここで嘆いてる暇は無い。

 スカートを軽くはたき、また前へと走り出す。


 私は、何に焦っているの?


 私は走り続ける。
 その理由が分からないまま。