ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: となりの駄菓子屋さん(復活) ( No.8 )
- 日時: 2011/01/12 22:09
- 名前: 黒 ◆IZUTPCz4Po (ID: Aw5kQYTw)
「ついに来ちゃったよ……」
私は肩に掛けてあるカバンを持ちなおす。
春の暖かい風が私の頬を撫でる。裏山の木々達がざわざわと囁くように揺れている。
これからこの意味ありげな建物に入るのか……もう二、三歩歩けば家なのに……。
私はこんなものを題材にしてしまったことを今頃後悔する。でも、たんか切っちゃったし……しょうがない。
その時、ガラガラと滑りよくスリガラスの扉が開いた。
そこからにゅう、とろくろくびのように出てきたのは、あの男の人だった。その途端、首筋が逆立つ。
「お待ちしておりましたよ。そろそろ来る頃かなと思っていたので」
男の人はにんまりと口の端を最大限にまで伸ばした。
それが「笑う」という動作に気付いたのは、丁度ベッドに入ろうとしている頃だった。
私はろくろくび——じゃなくて男の人に案内され、中に入る。
完璧な記事を書きあげるための取材方法、その一。中に入ったその背景などもしっかりとこの時点で手帳に書く。
中は私が子供の頃に入った幽霊屋敷とあんまり変わっていなかった。柱の隅には相変わらずの蜘蛛の巣、床はコンクリートで中央には駄菓子がずらり。端の壁にも棚がありそこにも懐かしい駄菓子やおもちゃなどが陳列されていた。
そうか、ここよく考えれば駄菓子屋さんだったんだ……すっかり忘れてた……。
けん玉とか懐かしいなぁ〜……よく子供の頃おばあちゃんに教えて貰ったっけ……。
でも、あの頃と少し変わってることがある。駄菓子を並べるための陳列棚が出てきたっていうのも変わったことだけど、それとはまた別。匂いが違う。
いつも子供の頃の幽霊屋敷の匂いと違っていて、全然カビ臭くない。この匂いは……。
あの男の人の煙管の匂いだ……。
私はゆっくりと目を細めて、男の人の背中を見つめた。
「そろそろ温かい春の風が吹いてくるようになりましたね」
男の人がゆったりとした口調で喋る。
「そうですね。つい最近まで身をちぢこませて学校に行っていたんですけど」
私が言うと、男の人はクスリと優しげに笑った。
「となりの駄菓子屋さん」というお店の内部は、初め見えるのは普通のコンクリートむき出しのお店、奥に進めば畳になっていてそこから靴を抜いであがるという形になっていた。
靴を丁寧に揃えて中にあがる。
「おじゃましま〜す」
「そこに座って下さい。今お茶を用意しますので」
男の人はそう言うと奥にある台所へと消えて行った。
畳の上にとても高級そうなソファとテーブルがある……二つセットになっているみたい。だけど、これどこかで見たことがあるような……。
「あの、すいません」
何か気になったらすぐに聞く。これ取材の鉄則。