ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 聖なる邪 ( No.2 )
- 日時: 2011/01/20 21:09
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xiz6dVQF)
- 参照: 続き了解しました
何が起こったのかなど分からない。 なんたって、奴らはいきなりやってきた。
一番最初の第一声が、
「火事だ!」
だったのに、いまや敵部族の攻撃と分かって村中総動員で迎え撃っている。
俺のいた村は、聖族の村だ。 争いごとなど好まないここは、今来ている敵部族ほど武器も無く、力もない。 それに対し、相手は相当強く、攻撃的だ。
母は、まだ小さな俺に隠れて居ろ。 それだけ言い残して戻ってこない。 父もまったく同じ、生きているかどうかすら危うい。
そして、村の広場の方で苦痛の悲鳴、命乞いなどの声が木霊しているのが良く聞いて取れる。
おそらく、村人を集めて生きたまま焼き殺してでも居るのだろう。
そして、その中で、
「裏切り者が!」
と言う声を聞いた。
村を焼く炎は見る見るうちに家を焼く。 もちろん、小さな俺は太刀打ち出来るはずもなく、そこで震えていた。
そこで、一度、意識は途切れる。
次に目を覚ました時には焼けた家の炭の上で、誰かが俺のことを覗き込んでいる。 見たことの無い顔……ではない。
「誰——……」
「動かないで、安静にしてて。 ジャック、君は全身大火傷したんだから寝てなさい」
そうだ、コイツは幼馴染のハンナ・カロリーネ・ホフマイスター。 村はずれの小屋に住んでいる変わり者だ。 親を早いうちに亡くし、一人で生きてきたらしい。 よく村に来ては俺と遊んでいた。
だが、こんな手当ての仕方を知っているとは予想外だ。
ハンナは、濡れたタオルを顔面に押し付けてくる。 流石にこれには息が出来ず、
「ハンナ、窒息する。 止めて。止めろ」
タオルごとハンナの手を振り払う。 傷は直に癒える、だが、村は癒えない。 死んだらそれでお終いだ。
半ば無理に起き上がると周囲を見渡し、言葉を失った。
辺り一面焼け跡しか見えない。 遠くに森が見えるくらいだ。 多分ハンナは村に居なかったから助かったんだろう。 運がよかったのだ。
「……今すぐ復讐なんて無謀なことしちゃ駄目だよ。 隠れてなかったらどうなってた事やら」
ハンナは安心し切ったらしく、その場に倒れると寝てしまった。 どうやら、敵が居なくなってからずっと村を見て回っていたらしい。 所々灰や炭がついて、火傷もある。
……これが、全ての始まりだった。
復讐は、蜜より甘く、殺されるより辛い物だと知る事も無く。 復讐に駆られた小さな化物が生まれた瞬間だったんだ。
それから、5年後。