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Re: 反響音の響くHz ( No.2 )
日時: 2011/01/16 19:04
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: .pwG6i3H)

雪の降る大勢の人間が行き交う人混みのある町の中。
行き交う人々の足踏む音が近くになり、やがては遠くなるの連鎖。
誰しもは見て見ぬフリをし、誰しもは嘲り笑う。
そんな中に小さな少年がいた。
外見から見て、まだ年も数えるほどしかない幼い子であった。
行き交う人々は皆、防寒に備えてあるが、この少年は見ているだけで寒くなるほどの擦り切れた服を着ていた。
寒そうに震えながら地面を虚ろな目で見つめている。
だが、誰もその少年の姿を見ようともしなかった。

「……おかあ、さん……」

ただ一つ、その少年が漏らした言葉は"それ"だった。
震えて寒くて手足が凍りそうなほど冷たい。だが、その言葉を言うと少年は体の底から熱くなる感覚がした。
その呟きはもちろん、誰にも聞こえてなどはいない。呟く程度の大きさの声が人々に届くわけもない。

「……かあ、さん……ッ!」

ついには、涙までもが溢れ出てくる。
元から行き交う人々に隠れるようにして小さな路地にいるので暗すぎるということもあるが、一つ少年はおかしかった。

「怖い……よぉ……」

それは、少年の手に握られていたモノ。そこから滴り落ちる、雫。
世に言う刃物という凶器であり、雫は赤い液体——つまりは血を意味していた。

何故このまだ幼げな印象の残る少年が血を滴り落ちていく刃物を持っているのか。
雪が降り始め、辺りは白という別色の混じりを見出す。
降る雪は少年の震えた体をより震えさせ、体の内の熱くなるものを一気に凍りつかせた。
——そうだ、自分は生きなければいけない。
その思いが少年の体、心までをも駆け巡る。何故か、笑みが浮かんだのだ。

「そうだ……殺してやるんだ。……僕達を、めちゃくちゃにした奴を」

先ほどまでとはうって変わって別の人格のような豹変ぶりを見せて不気味に笑みを作る。
少年はその後、震えていた体とは思えない俊敏な行動で血のベットリとついた刃物を雪で洗い流した。
そしてその後、誰にも見つからないようにそっとどこかに捨てた。場所は、よく分からない。
その時はよほど必死だったのか息を荒げながらこっそりと行った。
擦り切れた服に血がついていないのが何とも違和感の感じることだったが。

「見つけ、だしてやるんだ……必ず」

少年は、誰にも気付かれないまま、路地裏へと倒れこんだ。
白い、白い雪に包まれていくかのように。

「大丈夫!?」

そんな声が聞こえたのも、きっと気のせいに違いない。
でも、死ぬわけにはいかない。

——"アイツ"見つけだすまでは。



何かに呼ばれ、何かに包まれ、安堵した少年は即座に眠りについてしまった。
それが、戦いの始まりとも知らずに。


反響音は共鳴する。震動し、また離れては震え、音を放つ。
それは決して見えないものだけど、確かに感じる音がある。

——反響音が響く時、世界が共鳴し、叫び合う。

それはやがて、交響曲へと変貌を遂げる。