ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 反響音の響くHz ( No.7 )
- 日時: 2011/02/07 21:33
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)
夏風が妙に吹き荒れ、セミの鳴き声は辺り一面木が立っているというのに全くの無音。それは時刻が夕暮れ時であるからだろう。
ただ吹き荒れている夏風のみがそこに一人立っている少女に取り巻いていた。
その少女は長い黒髪を風に任せ、揺らめきながら肩に担いでいる細身の体に似合わない棒状の物を持っていた。
棒状の物は竹刀を入れるためのような袋に入れてあり、明らかに刀の形をしたものが入っていることが伺えた。
それもその棒状の物は細身で少し小柄な体に似合わず、それを優に超えるほどの長さを誇っていた。
人気のない林の中、一人佇むようにしているその少女の姿はまさに異端と呼べた。
だが、目だけは決意が込められた目をしているのである。
その真っ直ぐな透き通るような黒い目が見据えるもの。
——それは、町だった。
日はもう落ちかけていて、辺りもまた薄暗くなっており、カラスの鳴き声がどこからともなく聞こえてもくる。
そんな残響音など、全く気にもせずに少女はただ暗くなったことで光に照らされていく町並みを眺めていた。
「いつかは、この町で」
少女が呟いたのはたった一言。透き通るような凛々しい声で言った。
誰も、何も聞いてはいない。ここは無音の場所。
街灯に照らされていく町並みが妙に綺麗に見えた。
「——ゲームの舞台となる」
少女は、静かに透き通る声でそう呟いた。
春はクファに追いついて共に教室に入る。
教室前に書かれているクラス番号は2−2。
クファのこのなりで2年生というのもここの学生たちは全く驚きもしない。
ここは普通の学校ではなく著名人や芸能人、さらには特殊な技能を持った奴やお嬢様に執事といったのが当たり前なわけだ。
つまりそのような学校でクファのような外国人風幼女が悠々と2年生の教室に入っても誰も不思議に思うことはない。
「おっはよーっ! 皆〜!」
「おはよーっ! クファちゃんっ!」
「おはよーっ! 園咲ーっ!」
クファは手をぶんぶんと左右に振りながら教室を歩いていく。見れば周りはスタイル抜群なモデルやイケメンなど。
多色なメンバーがクファと共にクファに続いて教室へと入った春を出迎えてくれた。
同じような環境下ということもあるのだろう。だからこんなにクファにもフレンドリーに接してくれるわけである。
といってもそんなすごい連中だらけというわけではないが。もちろん、このクラスにも一般人はいる。春のように。
接しなかった接しなかったらで園咲家から何か復讐的なのが来るのではないかと考えるものもいるが、大半は違う。
クファの人柄はそんなものではなかった。
いつの間にやらグッタリしていたクファはすっかり元気いっぱいとなって笑顔で自分の席へと行く。
「クッファちゃーんっ!」
「ニーッ!」
春の目の前で抱き合う外国風美幼女とスタイルの取れた美少女。
髪をポニーテールでくくり、青色の髪をした足の綺麗な少女だった。よく着ているブレザーが似合っている。
「クファちゃんっ! 今日戻ってきたの?」
テンションマックスな青色の髪をした少女意気揚々とした感じでクファに話しかける。
「うんっ! ニーも帰って来てたの?」
「そうだよーっ! やっと合宿から帰って来たのよー」
クファはこの青髪少女のことを『ニー』と呼ぶ。それは苗字から取っていることは取っていた。
「久しぶりだな、二ノ宮」
クファの隣の席にバックを置きながら春は『ニー』こと二ノ宮 楓(にのみや かえで)に話しかけた。
「おっ! 春〜っ! 久しぶりだねーっ! 新学期始まっても頼り無さそうなのは相変わらずだね?」
「余計なお世話だよ。んで? 全日本の合宿はどうだったんだ?」
春の言葉に親指を立てて片目を閉じて胸を張る二ノ宮。
「うんっ! バッチリバッチリーっ! 結構しんどかったけどね」
こうやって普通に春は話しているがこの目の前にいる二ノ宮は全日本に選ばれた名誉ある陸上選手である。
今、陸上の長距離で陸上界を轟かせる有名人だ。
「ねーねーっ! どんな練習したのっ!?」
隣でクファが長身というほど高くはないがクファの身長では高いといえるであろう二ノ宮の腕を掴んで振り回す。
見ていて何だか姉妹のように見えるのが現状である。
「えっとねー……」
そんなクファに呆れることも鬱陶しがることもせずに笑顔で答える二ノ宮。
元から小さい子供好きということもあって世話好きなんだとか。その代わり小さい子限定らしいが。
クファの認識はどうやらその小さい子の内に入るようでかなり仲良しな二人である。
(売店で何か飲み物でも……)
春がそう考えていた矢先、
「はっじめ〜ッ!」
「うぉっ!」
思いっきり春の背中にのしかかるようにして来た謎の男により、春は自分のカバンごと机に倒れる形になってしまう。
「このっ……! 五十嵐っ!(いがらし)」
春がもがきながらそう唸るようにして言うと上にのしかかってきた男はすんなりとその場を退いた。
「新学期早々、だなっ! 春」
「お前も相変わらずいい根性してやがるな、五十嵐」
高笑いをするこののしかかり男の名前は五十嵐 圭吾(いがらし けいご)。
こいつがこの学園では少し珍しい普通の学生なのだがスポーツ万能、顔は良しのこいつはなかなかして人気者といえる。
だが頭は悪く、スポーツ万能ではあるが部活動には入っていない宝の持ち腐れというものである。
しかし、五十嵐が何故偏差値は決して甘くは無いこの学園に入れたのか、これはもう謎に包まれている。
「あっはっはっ! いいじゃないかっ! 一緒にグミでも食おうっ! な?」
「男二人でグミかじってる姿が画になると思うか?」
「思うねっ! イッツキュートだねっ!」
「お前だけだかんな。その考え持ってるのは」
五十嵐とは一般人同士ということもあって春とはよく気が合う。
とはいっても五十嵐はこの性格のせいなのかなかなかして人望も厚い。その代わりアホなんだがな。
「男が小さいこと気にするなよ〜っ! ほら、売店行こうぜっ!」
「いかねぇっての」
ここで嘘を吐く春。それはこのままだと本当にグミを食うハメになり得るからである。
五十嵐がなかなか人望の厚いところの一つでもあるが、嘘は全く吐かないということである。
「何でだよーっ!」
ふてくされたようにする五十嵐。だが顔は笑顔のままだというから余計に気色悪い。
「いや、チャイム鳴るから」
「なん……だと……!?」
「膝ついて落ち込むのはいいから。早く席つけ」
そうして数分後に少し若い女の先生が教室に入ってきて「HR始めるわよー」と言ったところから春はため息を一つ吐いた。
この学園は楽しい。だが春には裏の顔があった。
もう一つの顔。それは夜になれば表す本当の"俺"。
色々なことが頭の中を駆け巡っている最中に春は窓外の空を眺めた。
それはそれは、綺麗な澄んだ蒼色が続いていた。