ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 彼女日記。 ( No.28 )
日時: 2011/01/19 21:40
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)



僕はフェンスを越えたその先の細い足場に立つ。
吹き抜けていく風が余計虚しさを際立たせる。
茄保延達も予想外だったのか、口を開けて僕を見ている。
彼女も、日和もこの世の終わりみたいな顔をしている。
真っ青かどうかは、彼女等自身に聞いてくれ。
色は分からないんだから。

「飛び降りれば、いいんだろ」

僕がそういうと茄保延が、

「と……っ、飛び降りれば?でも、死ぬわよっ!」
「別に。 こんなとこから垣根に飛び降りたって死ぬ訳ないだろ」
「ば、っかじゃないの!」

まあ、正論だけど。
僕は両手を大きく広げて、茄保延達を見ながら後ろ向きに倒れ始める。

「だめだよ……っ、死んじゃだめだよっ」

倒れ始めている上半身を無理矢理起こそうとしながら、言う。

「お前が僕を殺そうとしたんだろ? 良かったじゃないか、これで苛めから開放されるぜ?」

日和は僕の方に手を伸ばす。
僕は伸びてきた日和の右手を辛うじて足場についている右の足で勢い良く蹴った。
当然反動で僕はそのまま地面に真っ逆さまに落ちていく。

この感情は何なのだろう。


絶望か、孤独か、虚無か、後悔か。


どれとも違う。




歓喜だ。




          ***


その後、僕は病院で目が覚めた。
別に僕はハクに味方した訳じゃないし、茄保延に味方した訳でもない。
終わった後に茄保延が病院にやってきて、

「偽善者!アンタなんて死ねばよかったのに!」

と、ボロボロ涙を流しながら言っていた。

「怖かったん、だから」

そして、廊下を走って去っていった。
途中、誄先生の声が聞こえたのは言うまでも無い。

ガラリと病室のドアが開いて、ドスドスという効果音が似合いそうな足音を鳴らしながら誄先生が入ってきた。
茄保延が走り去っていった方を睨みながら。

「なんなの、あの子。 病院は走るなっての」
「先生も足音うるさいです」
「ばっかじゃないの! つかうるさくない! キミがばかな事するからでしょう!」

誄先生は僕の方を向いて、叫ぶ。
だからうるさいんだってば先生。

「父親と同じね! 無茶ばかりして! どうせ佐伯に会えるからとか、そんなんでしょ!」
「強ち間違ってはないです。 そしてうるさいです」
「冗談。 まさかホントとはね、ばかな子」

先生はやれやれと手を横に振って、ドアに手を掛ける。
何しに来たんだ、この人は。
先生は「そうだ」と言い、白い壁にもたれた。

「七瀬の坊や。 キミは今日から退院日までこの病室から出るの、禁止ね」
「え」
「えじゃない!」

先生はピシャンとドアを閉めて、去っていく。
ドアの向こうから「更科先生、静かになさい」「え、あ、すみませんっ」と会話が聞こえてきたので思わず笑ってしまった。

「何だ、先生も子供だな」

僕がそう、独り言を言った時。





「なーなーせーっ!」





声が、綺麗で透き通るような声が聞こえた。


「ナナセが来てくれないと、寂しいの」


悲しそうな、声が聞こえた。

窓の方を向くと、顔が出ている。
ここは二階だよ? 無茶な。


「ねえ、ナナセに聞いてほしい事があるのっ。 ハヤミのお話、聞いてほしいのーっ」


左右の長さが違う、珍しい彼女の髪は美しく。
光を帯び、無邪気に微笑む瞳と。
病院が貸し出している服。

「ハヤミ、危ないよ」






紛れも無く、僕の愛するハヤミだ。