ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕の周りは死にたがり ( No.2 )
日時: 2011/01/16 12:07
名前: すみこ (ID: Qn90BKnn)

 第一話

 ピピピピ。
 目覚まし時計が電子音を奏でる。
 鬱陶しいと感じながら、手で時計を探し、『アラーム』ボタンを押す。
 くぁ…っと中途半端にあくびをしてから、ベッドから這い出てみた。
 なんだか、二度寝をする気もおこらないしね。

 あー眠い。
 ベッドのぬくもりが恋しい。
 冬だ冬だ。
 眠い寒いだるい。

 「おばさん、おはよ」
 
 居間の隣のふすまを開けると、そこは物置と化した和室だった。
 カタカタと、パーソナルなコンピューターのキーを押す音が充満。

 「んにゃ……おぅ、利樹か。ぐんない」
 「はいはい、ぐっもーにん」

 相変わらずフリーダムな叔母だ。
 朝の挨拶と夜の挨拶が逆転している。

 「がぁぁぁ、ねむい。どーしよー。原稿埋まらない—」

 ちなみに叔母は26歳の独身……というのはどうでもいいとして。
 作家を営んでます。……本当に営んでいるのかが訝しいけれど。

 「利樹、手伝え。敬愛する叔母の頼みじゃないかぁ」
 「やだよ。だーかーら、何度も担当さんが電話掛けてくれたろ?あと4週間ですーとか」
 「あたしは大事に取っとくタイプなの、そーゆーのは。
  夏休みの宿題とかも、最後の3日ですべて終わらせたわ」

 いや、自慢できないですって。
 計画的にコツコツと。プ○ミスさんもいってるぞ。あれ?武○士だっけ。
 
 「あー、頭かゆー。
  あたしもねぇ、頑張ったんだよ。4日も寝てないのよっ。
  なのに、さぁ、なんで明後日締めきりなのぉっ」
 「知らねーよ、さっさと仕事終わらせろ」
 「愛がないぞ、甥っ子よ。チミは本当にそれでいいのかね」
 
 あーはいはい、五月蠅いですよー。
 こんな叔母を持って、甥も苦労する。
 
 けど、家族の中では、この翔子おばさんが一番好きだなぁ。

 大雑把でいい加減だけど、僕を‘あの日’から大切に育ててくれてるわけだし。
 なんだかんだいって、おばさんが僕の親と言っても過言ではないかも。
 母も父も、僕‘ら’をちゃんと育ててくれたことなんて、なかったように思う。
 一般的な家族らしいふれあいもなかったし。
 
 痛みを伴うふれあいなら、毎日のようにあったけれど。

 「風呂入ってくるー」
 「いってらっさいな」
 「あー、あたし、今日の朝ごはんはオムレツがいいなぁ。ふわっふわでとろっとろのやつね」
 「はいはい、できる限り善処しますよ」
 「頼むぜミスター利樹。
  今どきはなぁ、ふわとろオムレツが作れない男なんてーのは、男じゃないんだぜ」

 へーそーですか。
 じゃあ、うちのクラスの大半は男じゃねぇな。女子もあんまし作れなかったような。女はどうなんだろう。

 
 風呂場の方から、ご機嫌にお歌が流れてくる。
 体が清潔になって、少しでも女らしくなりますようにっと。
 近所の岡田くんの話だと、
 『イイ女=いい匂いがするもの』
                だそうです。
 見た目は問題ないと思うんだけどな。
 やっぱり、問題は中身か。
 中身が女らしくさえなれば、来年にでも男を捕まえられそうなんだけどなぁ。
 
 ……あ、でもやっぱり。
   女らしい叔母さんは、おばさんじゃねぇ。
   気持ち悪すぐる。やめてけれ。

 おばさんは、おばさんもままがいいかな。
 
 この人、人生に悩みとかなさそうだしね。
 
 ぼくの周りで唯一の、健全な人間。

 それがおばさん。