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■13—『マザー』襲撃・舞台B ( No.51 )
日時: 2011/04/10 16:22
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
参照: ねるねるねるね! ねるねるねるね! ねるねるねるね!

 ————同刻、とあるビルの屋上にて。
 カピバラとりー子、遊はそろってブザー音が鳴り響く『マザー』見ていた。3人の様子はさまざまで、カピバラは面白そうに笑い、りー子はうろたえ、遊はイラついている。『マザー』の警告を伝える声を微かに耳に留めつつ、カピバラは弟子の2人に伝えた。
 
 「……俺は中にいる『チーム』の連中から、あの2人のお嬢さんを守ってくる。お前等は、最残日吉を連れてこい」
 「はいっス」
 「……………………」

 無言で肯定した遊は、夕日に背を向けた。りー子はその後を早足で追う。
 橙で彩られた空を眺めて、カピバラは普段の笑みを浮かべる。まるで、自分の計画がうまくいったかのように、これから起こる出来事を楽しむように。

 「頼んだぞ、りー子、遊」

 最後にそう呟き、カピバラはビルの屋上から飛び降りた。



 ■13—『マザー』襲撃・舞台B



 ————実験都市、メインストリートにて。
 りー子と遊は、カピバラに言われたとおりに、日吉がいるはずの学園へと急いでいた。りー子も遊も『コード』保有者であり走りは速いほうなので、2人の進み具合は他人よりもだいぶ良い。しかし、それでも学園まではかなりの距離だ。バスでも使えば良かったか、とりー子は一瞬考えたが、すぐにその考えを中断した。

 (師匠がせっかく頼んできたことっス、自分の足で行かなきゃ……!)

 中途半端に頑張ることなど、出来ない。
 りー子は自分を表したような中途半端という言葉にコンプレックスを抱いていた。小さい頃から、いつもいつも言われてきた『中途半端』。りー子にとってそれは、一種の呪縛のようなものだ。一生懸命に何かをやっても、それを上回る“誰か”がいる。そのせいで、りー子は昔から『中途半端』にしか出来ないと評価されてきた。

 (だから、だからっスよ……)

 この仕事だけは絶対に完璧に、いや、中途半端というレッテルを消したい——りー子は内心そんなことを思いつつ、さらに走るスピードをあげた。隣で並走している遊がこちらを驚いた目で見ているが、関係ない。とにかく走るっス、とりー子は脚がもつれそうになりながら日吉の元へと向かう。
 帰路に着く学生や買い物に行く主婦、仕事帰りのサラリーマン。人々の波を避けながら、2人は必死に走る。アスファルトの地面から伝わる強度を足裏で思い切り踏み、さらに加速する。

 「……………………りー子、次の角、左」
 「っ、分かった、ス」

 体内から湧く苦しさを吐き出して、りー子は返事した。遊はりー子と同じように走っているというのに、疲れたそぶりさえない。いつもの無表情で同じ速度を保っていた。すごい、と素直に感嘆する。
 2人はコンビニが建っている曲がり角をに差し掛かると、ステップを踏んで更に先へ進——————


 「っぷあっう!?」
 「……………………っぐ」


 ——————めなかった。気付けば、2人の前には大量の水が襲い掛かる!
 透明な水はりー子の顔を強かに打ちつけ、呼吸の邪魔をする。遊はというと、水が視界に入った瞬時に判断し、大きく飛び退いて水の“攻撃”をかわしている。

 「何っスかこの水……」

 びちょびちょに濡れたセミロングの髪をかき上げ、りー子が遊へと問う。知るか、という意味で遊はりー子を睨み、地面にみずたまりを作っているそれへと目を向けた。
 と、次の瞬間。
 にゅるにゅると、蛇のように水が蠢いた。水自身が意思を持つかのように。始めてみる光景に、りー子と遊は視線が釘付けになる。りー子のセーラー服に染み込んでいた水でさえも、小さな個体として、ミミズのように肌を這い“少女”の元へと戻っていった。

 「あァ、大当たりか? オイ」
 「そうだねー、私の行動も、お、大当たりだね!」

 その少女は手元で何筋もの水を操りながら、裏路地から出てきた。少女の言葉は隣にいる目つきの悪い黒髪の少年に向かってであり、少年はにやにやと下卑た笑いを繰り返している。

 「アンタら……何っスか?」

 りー子が立ち上がり、とっさに身構える。遊は鋭い視線で自分の前に現れた2人組を睨んでいた。白いブラウスに紅いリボン、膝下までのフリル付きの紅のスカート、という気品が溢れているようなどこか高級そうな雰囲気を漂わせている少女は、そんなりー子と遊を見て、幼いながらに妖艶に微笑んだ。

 「わ、私は、えと、來榧奏蘿(くるがやかなら)! ……よ、よろしく、ね!」

 同様に、少女とは正反対の、何処にでもありそうな真っ黒いファーコートに洒落たジーンズという出で立ちの、目つきが悪い少年が、口角を吊り上げる。

 「あん? 名前ェ? ……俺の名は高峯翔(たかみねしょう)。っま、どーせぶん殴られて忘れるんだろうけどよォ」

 そして、『コード』Acqua√4+πr保有者、來榧奏蘿と『コード』mix/45442保有者、高峯翔は————息が合っているのか合っていないのか、思い思いに戦いの火蓋を切った。


 「さあ、殺しちゃうよっ!」
 「まあ、俺に犯されろ?」