ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- ■04—『コード』 ( No.6 )
- 日時: 2011/07/25 08:06
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: ねるねるねるね! ねるねるねるね! ねるねるねるね!
日吉に突っ込んでいった男達。彼らの攻撃は、見事日吉にめがけて炸裂した。あまりの衝撃に、日吉の持っていた清掃道具のバケツが空中へと吹っ飛ぶ。日吉がぼろぼろになった姿が、容易に想像できた。
男達はやってやったという達成感と共に、ざまぁみろという嘲笑を浮かべた。『マザー』は、朝早くは起動していないことを、彼らは知っていた。そして、朝『マザー』にはただのアルバイト中の高校生清掃員が1人しかいないことも知っていた。自分達が必ず勝てるということも、……絶対という訳ではないが、当たり前のように考えていた。
だからこそ、だ。
(…………?)
彼らは自分達を襲っている、よく分からない違和感の正体の名に答えを出さなかった。否、出せなかったのだ。
だからこそ、だからこそ——————
「あー、バケツ壊れた……」
「ッ!?」
目の前にいる青年が、未だ“立っている”ことに。
驚愕を、隠せずにいたのだ。
■04—『コード』
ゆっくりと、レモン色の光が空に射してゆく。さっきまで立ち込めていた霧(ミスト)は、午前6時8分現在の東京と同じ気象として、すでにその存在を消している。
いつもと変わりばえしない景色に、仕事をするために歩みを進める者も、軽いランニングをしている者も。誰も、自分のいないところで始まっている戦いになんて、気付きもせず。
*
午前6時8分。『マザー』正面にて。最残日吉と襲撃者たちは、見事に対峙した。襲われ中(現在進行形)の日吉はというと、緊張感の欠片もない、疲れたような顔をしている。
「て、てめぇ……何でまだ生きてんだふうッ」
目だし帽を深く被った男が、言葉の途中で地面へとのめり込んだ。日吉が持っていたモップで思い切り横面を殴ったのだ。「話してる途中だったんですけど」と突っ込む者は誰もおらず、ただ日吉のその行動に目をむいた。
————とにかく、日吉のモップ攻撃は、残った男達の怒りを十倍以上の値段で買ってしまったらしい。
「ふざけんなテメェくそガキがぁ!」
「調子こいとったらぶちかますぞゴルァ!」
日吉の言葉に、2人の男が声を荒げた。片方はサバイバルナイフを、もう片方はパイプを武器としている。2人は一旦日吉から離れた。
ダンッ! 息もつかず、ナイフの男は全体重をかけた突きを日吉の腹部へ。もう1人はパイプを大きく振りかぶって日吉の頭部へと直行する。
「……っ……」
残った3人は、それを見てざまあみろと口角を吊り上げる。当の日吉は一度だけ息を呑むと、眉を潜めた。苦しげな顔をしている。
そして今度こそ、日吉はやられ——————なかった。
「はぁッ!?」
「ぐうっ……」
ぼろぼろ、とナイフとパイプがまるで砂のように崩れ落ちて行く。そんな有り得ない光景を、攻撃した本人たちは見た。自分達の眼前で立っている青年は、ビニール手袋をはめた両手で元ナイフと元パイプをただ掴んでいるだけだ。何か可笑しな行動をした様子は無い。
はっ、と見ていた男の1人が感づいた。
「お前……もしかして俺達みてぇに『コード』を持ってんのか!」
男が叫んだ後、しんとした沈黙が降りる。男が日吉に聞いた時には、武器を破壊された男2人は、生身になった体を日吉にモップで強打され、意識を手放した後だった。
日吉はその問いに、好戦的に笑む訳でもなく、かといって驚く訳でもなく————ただただ、口篭るように答えた。
「………………あー、多分」