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Re: 日常的非凡。 ( No.7 )
日時: 2011/01/16 20:04
名前: 螢 ◆KsWCjhC.fU (ID: EFzw/I/i)

「梓、お前!遅刻したんだ!?勿体ねー!今まで無遅刻だろ?」
 涼介が俺の横で騒ぐ。
「あー…そういやそうだったなー」
 俺はオレンジ色に染まった綺麗な空を見上げた。

 ……なんか綺麗過ぎて腹立ってきた。

 俺は綺麗過ぎる空が嫌いだ。
 「世の中の穢れなんて知らない」
 そんなこと言っている気がするから。
 腹が立つ。
 穢れを知らない奴なんて大嫌いだ。

「俺こっちだから。じゃーなー!」
 涼介が俺に向かって思いっきり手を振る。
 俺は軽く手を振ると再び歩き出した。


 家までに行くまでの帰り道には、あの人がいる公園がいる。
 あの人それは————……
「藍原のガキではないか!」
 この人。轟木 夢斗。
 性別、年齢、ともに不明。
 次いでに古風な喋り方をする変人。
「……轟木さんって男なんですか?女なんですか?」
 俺は走って向かってくる轟木さんに疑問をぶつける。
 轟木さんは悪戯を仕掛けた子供の様な笑顔を俺に向ける。
「謎じゃ!その方が面白いからの♪」
 俺の質問は、轟木さんの「面白い」という感情に消された。
「それじゃ、俺は家に帰るんで」
「……棗は元気か?」
 轟木さんが変わらぬ笑みで俺に質問を投げつける。
「?元気ですけど」
 俺が首を傾げて答えると、轟木さんは「そうか」と言って公園の奥に消えた。


「…ただいまー……」
 俺が家の扉の取ってに手を掛けた刹那、物凄い勢いで扉が開いた。
「あっずっさ———!!」
 俺はいきなり抱きつかれ、何が何だかわからないうちに家に連れ込まれた。

「久しぶりね!梓!」
「み、命さん……ですか?」
 俺は抱きしめられたまま、命さんの顔を見上げる。
「そう♪久しぶり」
 命さんは嬉しそうに俺に抱きついてきた。

 命さん、もとい、春日井 命。
 俺と棗の叔母にあたる人。
 現在28歳とのことだが、とてもそうは見えない若々しさ。
 せいぜい20代前半に見える。

「命さん、離して下さい!梓が困ってんじゃないですか!」
 棗が命さんを俺から引き離してくれた。
 命さんが口を尖らせていたのは敢えて無視だ。
「大丈夫か?」
「あ、うん。平気」
 俺がにっこりと笑って見せると、棗は安心した様に俺を椅子に座らせる。
「アタシと梓の愛の抱擁を邪魔しないでくれるー?」
 命さんが棗に、棘のある声で言うが、棗は俺を庇う様にして立ち、
「梓を窒息死させるつもりですか!?あんたは!」
 激怒した。
 それはもう絶叫するほどに。
 正直俺の耳が無事か心配だ。
「あんたは人より力が強いんだから加減というものを覚えてください!」
 棗は命さんの前に仁王立ちをして怒鳴り散らす。
 命さんは全く反省していない様だった。
「うるっさいわねーアタシの梓はそんなにヤワじゃないわよー」

 いやいやいやいやいやいや!
 正直棗が止めてくれてなかったら、俺今頃天に召されてますから!

 勿論、口には出していない。
 そんなことをしたら、今度は手加減こそしてくれるが、その分長く抱かれてしまう。

「はあ……」
 俺の口からは異議では無く、溜息が漏れた。
 
 棗は命さんを追い出すと、俺にもたれかかった。
「はあ……やっと行ってくれた……」
 俺はそんな棗の背中を軽くたたき、耳元で呟く。
「ありがと」
 棗は俺の言葉にふっと顔を上げると、俺の顔を覗き込んだ。
 俺が笑うと、棗も柔らかく笑ってくれた。

 こういう時の棗は兄じゃなくて、どっちかというと弟だ。
 俺は五歳も年上のはずの兄貴を見つめる。
 
———可愛い。

 疲れて俺にもたれかかる棗は、とても22歳には見えない。
 同年代に見えてくる。どっちかっつーと犬っぽいけど。

「お疲れ」
 俺が耳元で囁くと、棗は俺にもたれかかったまま、
「ん」
 と小さく返事をした。