ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 日常的非凡。 ( No.17 )
- 日時: 2011/01/17 21:18
- 名前: 螢 ◆KsWCjhC.fU (ID: EFzw/I/i)
女と間合いを取ったのはいいが………
「どうしよう……」
俺は絶望的状況を一望する。
相手はナイフを所持。
しかも、大の男を殺してしまえるほどの実力。
俺は丸腰で、武器になるものも無し。
力は十人並み。
「どうして逃げるの?」
女は今までの笑顔が嘘のように、顔を思い切り歪ませる。
「いや、死にたくないし」
俺が至極尤もなことを言うと、女は不愉快極まりないといった表情でナイフを振りかざす。
「何で?私、大切にシテアゲルヨ?」
女は恍惚とした表情で俺を舐める様に見る。
……気持ち悪ィ
俺は嫌悪の感情を隠すこともせずに女を睨む。
「今すぐ君の呻き声が聞きたいな……梓クン……」
女は睨まれたことに快感を持ったようで、うっとりとした感情を全面に押し出す。
「ね……今すぐ私のモノになってよ……!」
女がナイフを俺に突きつける。
「俺は死にたくねぇって何度も言ってんだろ!」
俺は突きつけられたナイフを思い切り蹴る。
蹴りは見事に当たり、ナイフは数m飛んでいった。
よし!これで形勢逆転!
俺が思わずガッツポーズを決めると、女は至極嬉しそうな顔で、ポケットに手を突っ込み、【何か】を取り出す。
「形勢逆転だと思った?残念♪」
女は【何か】—————銃を俺に突きつけた。
………やべぇ
冷や汗が止まらない。
喉もカラカラだ。
「私の元に来て……」
女は俺の耳元で甘く囁く。
綺麗な声。
銃さえ無ければの話だが。
「はい、そこまでです」
俺が死を覚悟したその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「その男を離して下さい」
その言葉とともに振り下ろされたのは、木刀だった。
「きゃッ」
女は木刀を手に打たれ、思わず銃を落とす。
俺はそれをすぐさま蹴り飛ばす。
「ちッ……邪魔されちゃったね……♪続きはまた今度♪」
女は俺の頬に手を当てて物騒な事を呟くと、闇に姿を消した。
「有り難う御座いました」
俺は木刀を片手に持った恩人に頭を下げる。
「橘川さん」
橘川さんは青みがかった黒髪を後ろに払うと、俺に向き直る。
「いえ、無事なら結構です。それより、」
橘川さんが言葉を止める。
「どうしてあんな状況に?」
「いや、何か家に帰ろうとここ通ったらバラバラ殺人の現場にばったり出くわしてしまいまして」
俺が有り得なさ過ぎるここまでの経過を話すと、橘川さんは案外すんなり受け入れてくれた。
「棗が何か言ったんですか?」
俺は橘川さんに聞くと、橘川さんは首を傾げた。
「どうしてですか?」
「いや、いいタイミングで木刀を持っているから……」
俺は橘川さんの持っている木刀に視線を落とす。
綺麗だが、橘川さんの汗が染みこんでいるというか……
味のある木刀だ。
「ああ、私剣道をやっているので。今はランニング中なんです。木刀はもう手放せないモノになっていまして」
橘川さんは木刀を眺める。
「剣道……」
意外だ。
橘川さんって華道とか茶道とかやってそうなのに。
「あんまり、自惚れないでください」
俺がぼーっとしていると、橘川さんはいきなり口を開いた。
「え?」
「棗君が貴方のことを心配しているとかどうとか」
橘川さんは綺麗な笑みを浮かべたまま俺に詰め寄る。
「棗君は……渡しませんから……」
橘川さんが俺を見据える。
その瞳には憎しみと嫉妬の念が込められていた。
「棗のことが……「好きですよ」
俺の言葉を遮るように橘川さんが言う。
「棗君が好きなんです。いけませんか?」
橘川さんは綺麗に笑うと凄みのある声で俺に言った。
俺は橘川さんの気迫に圧され、縮こまる。
「じゃ、じゃあ俺こっち何で……」
「ええ、気を付けてくださいね」
……女性に心配される俺って……
なんか泣きたくなってきた……