ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 日常的非凡。 ( No.33 )
日時: 2011/01/21 20:23
名前: 螢 ◆KsWCjhC.fU (ID: EFzw/I/i)

 「わからん……」
 轟木さんが、何十分も考えた結果はそれだった。
 ま、そんなもんだろ。
「有り難う御座いました。もう二度とアイツと会いたくないんでもう帰ります」
 俺は轟木さんに背を向けて歩き出した。
 轟木さんは俺を引き止めることもせず、ベンチに寝っ転がった。
 ……ホームレスなんだろうか?
 俺はそんな疑問を心の内で思う。
 もう空は暗い。
 公園の入り口は暗くて見えない程だ。
 俺は小走りで公園を出た。



 俺は路地裏には懲り、普段の道で帰る。
 駄菓子屋の前を通り、坂を上———
「梓クンみ〜つけた〜」
 ———ろうとした。

 女は坂の上から俺を見下ろしていた。
 片手にナイフを持って。
 俺の頬に冷や汗が伝った。
「梓クン♪この前の続きしよ!」
 女はそう叫びながら俺にナイフを投げる。
 ナイフは俺の頬に赤い線を残した。
「当たった〜!」
 女は両手を上げて喜んでいた。
 ……ムカつく。
「武器が無くなったのに随分と余裕だな」
 俺は女を睨みつけながら低く呟く。
 女は最初、キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔になり、上着のポケットに手を突っ込んで

 ————ナイフを取り出した。

 ……何本持ってるんだコノヤロウ。
「ね、私が誰かわからない?」
 女の顔は暗くて見えない。
 笑顔なのかは声のトーンでわかる。

「この前は綺麗な色だったでしょう?今の姿はあんまり見て欲しくないんだ〜」

 女の声は高い。
 綺麗な色————血の色のことか。

「でも、今の格好ならわかると思う♪」
 
 女の顔は暗くて見えない。
 月が雲から顔を出せば、見えると思う。

「あ、こういう言い方だったかな?」

 女は楽しそうに、至極楽しそうに言う。

「私の事がわからないのかしら?」


 今、月が顔を出した————