ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 日常的非凡。 ( No.35 )
- 日時: 2011/01/21 20:41
- 名前: 螢 ◆KsWCjhC.fU (ID: EFzw/I/i)
日常的人物。
俺は目を見張る。
どうして気づかなかったんだろうか。
あの凍てつく様な目線に。
あの涼しげな顔に。
……わかるわけないか。
俺は素直に溜息をつく。
お前だなんてわかるわけがない。
冷静な、氷の女王。
それが彼女の二つ名なのだから。
笑顔でナイフを振り回すなんて、想像さえしなかった。
いや、普通しないだろう。
人に執着することに愚かしいという感情さえ抱いていそうなあの目。
そんな目をした彼女が、俺なんかに、よりによって俺なんかに執着するなんて。
想像もしない。したくない。
「何で俺なんだろうな……」
俺は呟く。
「どうしてだと思う?」
彼女は、『氷の女王』と恐れられる彼女は、彼女らしからぬ笑みを浮かべる。
……気持ち悪ィ。
前から気持ち悪いとは思っていたが、あいつだと知ったから尚更。
「なあ」
俺は縋る様に、『氷の女王』に言う。
人を愚かだと言っている様なあの冷やかな笑み。
一人でいる孤高の人。
少なからず、憧れている面があった。
だからこそ。
彼女ではないと信じていたのに。
「なあ…………氷室」
現実は非情だ。
氷よりも冷たく、刃物よりも深く心に突き刺さる。
氷の女王はそんな現実の頂点に君臨していて。
その美貌に擦り寄る数多の男ども等に見向きもせずに。
俺を選んだ。
どうして?
ネエ、ドウシテ?
教えてくれよ、神様。
答えを教えてくれるのだったら貯金を全部賽銭箱に入れてやってもいい。
答えを教えてくれるのだったら宗教に入ったっていい。
だから教えてくれ。
どうしてお前は狂った?
いつからお前は狂った?
誰に狂わされた?
俺の目の前に立つ彼女には、いつもの冷やかな笑みは無く、代わりにあるのは狂気に満ちた笑顔。
俺を、俺だけしか映していない瞳には、俺の何が映ってるんだ?
頼む、頼むから。
狂わないでくれ。
正常なお前に戻ってくれ。
冷やかな笑みを浮かべてくれ。
いや、【正常】なんて、もうとっくに消えてなくなっているのかもしれないけれど。