ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 日常的非凡。 完結。残すは番外編! ( No.53 )
- 日時: 2011/01/22 18:58
- 名前: 螢 ◆KsWCjhC.fU (ID: EFzw/I/i)
梓の過去。
俺は、父親と母親を無くした孤児。
引き取り手が見つからず、孤児院にいたときだった。
「ねえ、私の子にならない?」
ブランコに座っていた俺は、上から降ってきた声に顔を上げた。
「は?」
俺は話がわからずに呆然としていたが、女はそんな俺に背を向けると、孤児院の中に入っていった。
多分、院長室に行ったんだろう。
子供を引き取るのは、実に簡単な事だった。
院長の一言、「引き取る」というだけ。
子供なんてそんなもんだ。
「君の名前は、 っていうんだ」
俺の思った通り、俺はこの人に引き取られた。
ふうん。 か。
悪くない。
「これから宜しくね。 」
「わかった」
俺と、この人との生活が始まった。
「 、どうしてそんな事も出来ない!?」
幸せではなかったけれど。
あの人は、俺に最上級のモノを身に着けさせ、最上級の振る舞いを求めた。
俺がそんな期待に応えられるはずもなく。
「 !?私に口答えするの!?」
あの人は俺の腕に包丁を突き刺す。
……痛いなあ。
俺は能天気に死を覚悟する。
「 、痛い?ねえ、痛い?」
あの人は、狂っていた。
ま、狂ってなきゃ俺のことなんて引き取らないと思うけれど。
「 、私ね、夢があるんだ」
あの人は、俺の手に包丁を突き刺したまま、嬉々として語りだした。
「殺されたいの。ただ死ぬのは嫌。綺麗に、美しく、穢れなく!」
変わってるね。
俺がそういうと、あの人は包丁を俺の手に刺したまま、もう一本の包丁で俺の腹を抉った。
俺の腹から、面白いくらいに血が溢れる。
「だからさ、 、私の事、殺してよ」
あの人は俺の手に刺さっていた包丁を思い切り抜き取り、俺に渡す。
……痛いのなんてこの人にはわからないんだろうなあ
俺は能天気にそんな事を考えいた。
「 、早く、綺麗に!」
あの人は俺の前であおむけに寝る。
純白の服に、あの人の綺麗な漆黒の髪がかかる。
「 !早く!」
催促する声が荒げられる。
そんなに死にたいんなら殺してやるよ。
ただし。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
楽には殺してやらない。
あの人は獣の様に叫ぶ。
俺はあの人の綺麗な顔に刃を突き立てる。
滑稽だ。
あんなに死にたがっていたのに、いざ死ぬとなると、こんなにも騒ぐ。
「 !!綺麗に!ッああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
俺はあの人の言うことに耳も傾けず、あの人の腹を切り裂く。
綺麗になんか、殺してやるものか。
俺は名も知らぬあの人の腕を切り落とす。
人間なんて、そんなもの。
死んだら皆、汚いんだよ。
【氏名:不明 性別:男 年齢:14歳
両親は既に他界。引き取った養母を包丁で滅多刺し。
養母はこの少年に暴力をふるっていた模様。
この事件は、虐待されていた恨みからの犯行と考えるのが妥当である】
あの人が死に、俺は独りになった。
孤独の方がいい。
親しい人間なんて、作るだけ無駄。
辛くなるだけだ。
でも、あの人が死んだ後、俺は引き取られた。
俺の兄だと言っている人物だ。
何でも、俺の事をずっと探していたらしい。
そんなこと言われても困る。
いきなり『兄さん』なんて呼べない。
だから、俺はその人のことを名前で呼んだ。
その人は最初、残念そうな顔をしたが、段々慣れてきたのか、笑ってくれる様になった。
その人はとっても優しくて。
暴力なんて振るわなかった。
名前を呼ばれるのって、案外嬉しいな。
俺はそう思うことが出来た。
彼女につけられた名前は、嫌いだった。
そういうと、あの人は俺に新しい名前をつけてくれた。
梓。
木の名前なんだそうだ。
俺は気に入った。
よりはマシだと思った。
今は、
「棗、行ってきます」
多分、
「おう」
幸せだ。