ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: +。*+。*+。*水鏡に映る月の光+。*+。*+ ( No.18 )
日時: 2011/01/19 22:27
名前: ユフィ ◆xPNP670Gfo (ID: Y8UB0pqT)

「ねえ………」
「何?」
「なんで私が……こんなことしなきゃなんないのー!!!!!!」

いきなり大音量で怒号が響く。ここ、深い滝つぼで。
そこには、まだ薄暗い早朝にも関わらず問答無用でぎゃいぎゃい騒ぐ16歳の女の子……六花と、その式神の響羅がいた。
…………そして、

「がんばれ〜♪りっちゃん♪♪」

上機嫌で木の上からこちらを覗きこむ青年……慧斗と、式神の紅羅もいる。
季節は師走。そんな寒い中で、ごうごうと流れる滝水を先ほどから「みそぎ」として頭からかぶっていた六花はもう怒りを通り越して呆れていたのだが……

「だいたい、なんでこの季節に滝行!?しかも、早朝!何より……」

すると、六花はぎっと慧斗を睨んだ。

「なんであんたがここにいんのー!!!!」

すでに、忘却のかなたに追いやった怒りを連れ戻して叫んだ六花に、やれやれと首をふる響羅はちらりと紅羅のほうの様子を伺った。
相変わらずつまらなそうに呑気にあくびなんかしている。そして、こちらの目があうたびに目をぱちくりさせて微笑みかける。
まったく、何をやってるんだか……

「六花!!頭の中心がずれてる!」

本日、近くで見守っていた響羅の役目は、六花の護衛、及び………

「途中で逃げないようにするための監視役か………」
「うわ!?」

いきなり耳元でささやかれた声に驚いて一歩後ずさりした響羅は、湿った地面に足を滑らせ転倒する……はずだったが、ぎりぎりの所で声の主、紅羅に背中を受け止められた。

「なんで、あんたがこっちまでくんの?てか、人の心読むな!」
「え〜?だって落ちそうだったから支えただけだよ?」

にっと笑う紅羅の表情に一瞬釘付けになった響羅は、はっと我にかえり離せ、といって紅羅との距離をとる。
そのとき、響羅は、自分の頬が少しほてっていたように思ったが、気のせいだろう。いや、気のせいであって欲しいと痛切に思った。
一方、六花のほうは意識を集中させるどころか、胸の内よりふつふつと湧き上がってくるものを抑えるのに必死だった。多分きっと、否、間違いなくこれは疲労、いや、それも違う。これはもしかしなくても怒りというやつではないのか……
そんなことをつらつら考えてしまう六花だったが、刹那、何か首元を捕まえられた感覚があった。………が、ばっと振り向いてもそこには何もない。
その動作に異変を感じた慧斗は微かに眉を寄せる。今、確かに自分も何か感じた。冷たいものが背筋を通る。
ここは危険だ、と本能で察知した六花はばしゃばしゃと池のようになっている水溜まりを歩き、急いで陸地へと向かった。

「どうしたの?」
「嫌な感じがする……ここにはいないほうがいい。………帰るよ。」

いささか険しい表情を帯びた六花にただならぬ様子を感じた響羅は、素直に是と答えその場所を離れた。

「俺達も離れたほうがいいんじゃね?」

気を使って声を掛ける紅羅に慧斗はそうだな、と一つ頷いて何かを探すように辺りを見まわし、すぐにそこから立ち去った。