ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: +。*+。*+。*水鏡に映る月の光+。*+。*+ ( No.28 )
日時: 2011/02/05 12:07
名前: ユフィ ◆xPNP670Gfo (ID: Y8UB0pqT)

第二話 深い影は夜闇にうつる

時刻は昼。空には雲一つない青空が広がっている。
だのに。一向に気分が晴れない少女……六花がいた。
眉間にしわを寄せて頬を膨らませて先ほどから何か低く唸っている。

「六花………」
「べつに!?普通だし!?どこも不機嫌そうになんかしてないから!!」
「まだなんにも言ってないんだけど………」
「あぁ??」
「イエ、ナンデモナイデス」

どすの効いた低い声は、それはもう迫力満点だ。さすがの響羅でも何か冷たいものが背筋を伝うのが感じられた。
そのとき、ある女性が六花を呼んだ。

「六花〜!!ちょっと手伝って〜!!」
「はあい♪♪」

今日は、東市で売る食材の準備がある。
六花は、昼と夜での人との接し方が違う。全くの猫かぶりという事だ。その理由は後ほど知ることになるだろうが……
ただ、自分や、母親である雪那にだけはいつも同じ接し方をしてくる。嬉しいような、そうでもないような、複雑な心境になるが……
さて、話は戻り、なぜこんなにも六花が不機嫌なのか。

それは昨日の夜までさかのぼる。

満月の夜である今日……いつものように、都の見回りをしていた六花と響羅は、突如起こった突風に異変を感じ、現場に駆けつけた……のだが……

「「………でかい………」」

同時に発せられた言葉はごうごうと唸る風にかき消されて夜闇に溶け込んでいく。
二人の頭上には、大きさ、六花の三人分はあるであろう、それはもう巨大な影がぐるぐる飛び回っているのが見て取れた。
その影の正体こそ………

「なんで……からす?」

今、まさに巨大なあの鴉が頭上を飛び回っている。しかも、その数は尋常ではないほど多い。
この光景こそ尋常ではないが。
こんなに数が多いと、二人がかりでも骨が折れる。助けを呼ぼうにも大体、そんな人物いない。ちなみに、慧斗達は除外。理由は簡単。いろいろめんどくさいから。

「で、どうすんの?これ………」
「なんで!?えぇぇぇ!?鴉!?なんでよ!?はぁ!?!?」

いまだにこの状況を把握できていない六花を横目に、響羅は思案した。こんなの自分だって見たことがない。私は一応神の末裔であるから、軽くうん百年は生きている。なのに、この状況………本当にありえない。
そこまで考えた響羅は一つため息をついて頷いた。

「………雪那に頼もう……」
「えぇっ!?母上に!?……もう寝てるんじゃ……」
「んじゃどうすんのよ!これは私も無理よ!?」

そんなこんなで出た結果は………

「……………………………………頼む」

長い沈黙の後、ごく小さな声でそう呟いた六花は、呼んでくるから待ってて、と言い残して今来た道を引き返した。

本当は響羅とて、知っていた。六花が自分の母のことをどう思っているか。
六花の母である雪那は、六花を上回る甚大な霊力を持っている。しかし、「女」という理由だけで普段、陰陽師やっているような仕事はあまりさせてもらえない。………表では。

そんな彼女のことを六花は幼いころからずっと憧れていた。その強さを羨ましく思って、ずっと修行をしてきた。そのために、こうやって都を守っている。

………だのに。

せっかく今まで、母親の力を借りずにここまでやってきたのに、この上で呑気に飛んでいる鴉のせいでぶち壊しだ。
あぁ、腹が立ってきた。大体、元はといえばこいつらのせいだ。こんなに人間の住む都にまで入り込んでいるとは。
やがて、我慢ができなくなった響羅は自分の手に通力の塊をつくる。ほのかに光るそれを一気に頭上の鴉めがけて放り投げた。

見事的中。その光玉は一羽の鴉に当たり、しまいには、絶叫をとどろかせて灰と化した。
刹那。いきなり鴉達の動きがぴたりと止んだ。

「………お?………」

気の抜けた声を発してそのまま動かななった鴉を見て、響羅はこう思った。
鴉って、空中で止まれるのか!
完璧に要点がずれた考えが浮かんだ瞬間、その鴉たちの赤みをはらんだ眼がこちらを射た。
ひくりと喉をならして一歩後ずさりった響羅は、次の瞬間、聞き慣れた声が聞こえた気がした。

「気がしたんじゃなくて、いるから!」

突如として背後に現れた六花ともう一人、雪那の姿が見て取れた響羅は、いまにも突進してきそうな鴉達のほうを一瞬忘却のかなたに追いやった。

「おっそい!あと、人の心読むな!」
「え〜……読んでないよ?」

こんなたわいのない会話を目の当たりにしながら雪那は鴉達に視線をやって目をみはる。