ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: +。*+。*+。*水鏡に映る月の光+。*+。*+ ( No.29 )
日時: 2011/01/22 01:15
名前: ユフィ ◆xPNP670Gfo (ID: Y8UB0pqT)


「とりあえず、下がりなさい」
「え?でも………」
「下がれ」
「は、はい。」

おごそかに警告された六花は距離をとって見守る。そんな自分が無力で歯がゆいばかりだ。
そういえば、なぜこんな雰囲気になったんだ?さっきまで、ただ飛び回っていただけなのに。
そこまで考えて、はっと響羅の方に視線をめぐらせる。すると、響羅はその心中を読んだのか、しれっと明後日の方向を向いている。
絶対何かやらかした………!!
なぜか、というのは愚問だろう。見れば分かる。完璧に、額のあたりに変な汗をかいているのだから。

「響羅…………」
「………ん?何のこと?私、知らな〜い!」

いささか怒気をはらんだ声で名を呼ぶと、さらに、びくっとしてそっぽを向いた。

そんなやりとりを聞いていながらも、鴉と対峙していた雪那は、ふっと力を抜いて、僅かに微笑みを浮かべる。

「雷神……召喚……急々如律令!!」

凛とした声で真言を唱えた次の瞬間、空から、超膨大な雷がおとされた。
幸いにも、ここは都より、少し離れた荒地だったので、被害は防げたが、その音は頭がくらくらするほど大音量だった。
六花や、響羅も思わず耳をふさぎ、目を閉じた。少しまだ残響が残っているが、そっと目を開けてみる。そこには、鴉の一羽もいなかった。

「ほぁ〜……さすがね、雪那」
「そりゃどうも。さてと、終わったことだし、帰りますよ?……六花?」

雪那がそっと呼びかけると六花は呆然と立ちすくんでいた。
あんな大群をたった一撃で……いとも簡単に。同じ血を引いているのに……
じわっと目を潤ませた六花に雪那は、深いため息をついた。

「六花………あなた、数珠つけっぱなし。」
「あ…………」

そうだった。すっかり忘れていた。いつもの癖で。この数珠は自分の力が漏れてしまわないように、霊力を封じるものだった。

「あ〜………;」
「あなたも、きちんと修行すればもっと強くなれるから。焦らないでいいの。ほら、もう遅いんだから、先に帰りなさい」
「はい!」

満面の笑みで頷いて、自分の屋敷に戻る娘を見て、本当に娘とはいいものだなとしみじみ思っていまう雪那であったが、再び表情を引き締める。
あんな鴉がこの世に存在するとは思えない。まさか………
そう思慮深く考えた彼女は、著しく霊力を消耗したため、一度屋敷に戻ることにした。

そんな彼女らをじっと木の上から気配を殺して見ていた人物がいた。その影は瞬一つで暗闇に溶け込んで見えなくなった。

「ふぅ〜……やっと帰ってきた〜……」
「おかえりー♪」
「ただいまー!って………おえぇ!?!?」

六花は絶句した。目の前でのんびりお茶をすすっているこの青年……これは間違いなく慧斗、だ。

「な、なな、な、え、えぇ!?」

なぜ、ここにいるのか、と言いたいところだが、言葉にならない。そんな六花を一瞥し、同情の色を見せた響羅が変わりに尋ねてやる。

「それは……」
「私が呼んだのよ!!」

はっと振り返ると、そこには遅れてやってきた雪那がいた。
慧斗曰わく、なんか、その辺をぶらぶらしてたら、変な鴉みたいのを見つけて、とっとと祓ってしまおうとしたところ、六花が現れて、ちょっと傍観者となっていた、ということらしい。

「じゃあ、なに?最初から見てたの?」
「あぁ。そんで、それを雪那様に伝えようとしたら、心配しなくていいから、ここで待っててって言われたから待ってたってわけ」

ひょうひょうと事実を語る慧斗に対して、六花は、今回で一番盛大にため息をついた。

「それにしてもりっちゃん……ああゆう所は臨機応変に対応しなきゃだめだよ?俺みたいに☆」

とどめである。そこで六花は一つ深呼吸をして思いっきり叫んだ。

「お前はとっとと出ていけー!!!!!」


そうして、今日に至った訳だった。全く、本当に慧斗はよくやってくれる。
まだ機嫌が悪そうだが、ほおっておけばいずれ元に戻るだろう。

「響羅〜!!手伝って〜!」
「はいはい……」

しぶしぶ肩を落として六花の元へ行った響羅達はまだ、これから起こる不幸な事件のことについて、考える由もなかった。