ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 五つの光、クリスティン。 お知らせ有 ( No.50 )
日時: 2011/02/12 16:42
名前: 楓 ◆nxYfjsTN/c (ID: 3lmdTyLL)

上から人が降ってきた。

…前もあったな、こんなこと。
それは置いておいて、落ちてきた人間は細身のハーベリンががっちり受け止めた。

「もう、エイジ、本を読むときは足元に気をつけなさい…って血ぃっ!!」

落ちてきた人間を見たハーベリンは出血していたのをみて投げた。

「なして投げる!?エリアル、何か巻くもの!」
思わず俺は焦る。名前を呼んだということは恐らく知り合いだろ!?
エリアルが持ってきたタオルで傷口を縛る。
処置をしている間もエイジと呼ばれた人間は共に落ちてきた本を読み続けていた。

「あ…あはは、ごめんなさいね?血が苦手で…」
処置を終えた人間を横にちょこんと置き、ハーベリンが苦笑した。
「この子はエイジ・ミーシャ。私の娘よ」
「娘ならちゃんと処置してよ!吃驚して涙でそうだったじゃない…!」

エリアルは半泣きだ。

「涙…?なんですかそれは」

きょとん、そんな音が付きそうな様子でエイジが首を傾ける。聞かれたエリアルはというとフィアンマと顔を見合わせていた。
まさか、この少女は『涙』というものを知らないのか?
そんなわけはないはずだ。見たところ12、13歳だ。それにこの単語は幼稚園児でも知ってる。

「え?知らないの?悲しいときとかに目からね、水がでてくるんだよ」
丁寧にエイジに言うエリアル。そんな様子を見てハーベリンは悲しそうな顔をしていた。

何か昔のものを思い出すみたいに。
「何か…あったのか?」

おずおずとハーベリンに話しかける。フィアンマも気になった様子で黙ってこちらに近づいてきた。


「ええ。此処ファムにはね、昔から地面の奥に強い守り神がいるとされているの」


——まさか。

俺とフィアンマの目つきが変わった。

「でね、3年くらいまえ、当時10歳だったエイジを連れて、私の夫、グレイはその奥深くにつながると言われている祠に行ったの」

空気が重くなる。エイジと話しながらエリアルも耳を傾けているようで、ごくり、とのどを鳴らしていた。
相当緊張しているらしい。
「そこで奥に行ったら本当に出たらしいのよ、人の言葉を話す、巨大な蛇が」

ハーベリンの顔つきが神妙かつ血の気の引いた顔になった。

「グレイはそこでエイジを守って、外に逃がしたの。『ママのところに帰りなさい、早く』って。でもあの子、
パパっ子だから祠に戻ったみたいなのよ。

そうしたら——」

エイジの顔も蒼白になる。思い出してしまっているようだ。おそらく。


「グレイがその巨大蛇にやられるところを見てしまったの。見るも無残な格好になっていたわ。
戦った形跡もなくて——恐らく一撃でしょうね。
村の人たちは祟りだと言ったわ。その年は凶作になってしまったし…」

「だからこんな林の奥に…」
今度はエリアルが口を出す。

「そう。村の人たちは私達を恨んでる。学校でもエイジは辛い思いをして…あるとき急に記憶喪失になってしまったの」

そういい終わると椅子に座りなおす。髪をかきあげ、にこり、と笑った。

「気にしないでね、で、聞きたいことって何かしら?」
無理をした笑顔だった。俺でもわかる。

「実は…そのことについてなんだ」
そういうとハーベリンは驚いた顔をした。